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植物の防御戦略

非攻撃的に生き抜く“内”の強さ

文量:新書の約28ページ分(約14000字)

はじめに

独自のポジションを築いて、ただ自己のペースで成長していきたいと思っていても、他者が侵略してくることがあります。例えば、企業活動においては、機能やデザインの模倣や、買収攻勢、根拠や論理性に乏しい批判などがその例でしょうか。攻撃されたら応戦しなければなりませんが、攻撃的姿勢が事業のイメージに反する場合や、攻撃的姿勢を好まない人にとっては、このような攻撃は大きな脅威やストレスとなります。特に、ネット社会においては、情報の行き交いが活発になったことにより模倣の可能性は高まり、批判も広がりやすくなり、さらにはそれらに応戦している姿勢までも認知されやすくなりました。それは、ある種の盛り上がりをもたらす場合もありますが、ブランドイメージの毀損や、リソースの浪費につながる場合もあると考えられます。しかし、攻撃してくる他者は、その他者の論理で動いているため、攻撃自体を受けないようにすることは困難です。

自然に生きる植物は、当然のことながら、動けません。したがって、外敵が迫ってきても逃げることはできず、その攻撃をほぼ確実に受けることになります。人間の世界に比べて、法律もなく、外敵も理性に乏しい自然の中で、それでも植物は生き抜いてきました。

では、植物は絶えずさらされ続ける外敵の脅威に、どのような仕組みをもって対抗しているのでしょうか。逃げられず、また物理的攻撃や反撃をすることもできない中で、どのような方法や仕組みをもって生き抜いてきたのでしょうか。

 

今回は、千葉大学大学院・薬学研究院教授の斉藤和季先生にお話を伺いながら、このようなテーマについて考えてみました。

 

斉藤和季さいとうかずき先生

1977年東京大学薬学部製薬化学科卒業。同大学院薬学研究科に進学。82年薬学博士号取得。85年千葉大学薬学部助手。87年ベルギー・ゲント大学分子遺伝学教室博士研究員となる。現在は千葉大学大学院薬学研究院・教授、理化学研究所環境資源科学研究センター・副センター長。生薬学、薬用植物や植物成分のゲノム機能科学、バイオテクノロジーなどの研究と教育に携わる。文部科学省大臣表彰科学技術賞、日本生薬学会賞、日本植物生理学会賞、日本薬学会賞を受賞。天然資源系薬学・植物分子科学における優れた業績が評価され、2018年秋の紫綬褒章を受章。

〈著書〉

  • 『植物はなぜ薬を作るのか』 (文春新書、2017)
  • 『植物の代謝コミュニケーション―植物分子生理学の新展開』(共立出版、2004)
  • 『天然医薬資源学』(廣川書店、2010) など

 

 

第一章 植物の外敵への姿勢

動けない植物の生き方

植物は、その動けない身体のままで、人間よりも長い歴史を生きてきました。人間の祖先のホモ属が約200万年前に誕生したのに対し、陸上植物は約5億年を生きてきたと考えられています。ここでいう「動けない」というのは、手足をすばやく動かすような、動物的な動作に対して言っています。植物も、その種子を動物や昆虫に運んでもらったり、花や葉の向きを太陽の方向へ変えたり、ゆっくりとした移動や動作はできますが、素早い動作は出来ないという意味です。

そのような動物との違いにより、植物はさまざまな課題を抱えることになりました。

例えば、食料の獲得です。動物は移動しながら獲物を見つけ、食料を獲得することができます。しかし、植物は獲物のいる場所まで移動したり、追いかけたり、手足を使っておさえつけることもできません。そのために発達させたエネルギー獲得の方法の一つが、光合成でした。光合成は、大気中の二酸化炭素と、土から根によって吸い上げた単純な無機塩類を使い、そこに太陽からの光エネルギーが与えられることで、糖やアミノ酸などの有機化合物を作ることができる、植物特有のメカニズムです。

また、繁殖に関しても、同様に動物とは異なる課題を抱えています。動物は、異性がいるところまで移動したり、普段の生活を通してその強さなどの魅力をアピールするなど、能動的なアプローチをすることができます。しかし、植物はそのような能動的アプローチはできません。そのため、繁殖の際は、ハチなどの昆虫や自然の風に花粉を運んでもらい、受粉を助けてもらっています。また、種子を動物や風に運んでもらい、それによって繁殖場所が決定する場合もあります。動物は、果実を種子ごと食べて移動し、その移動先で排泄物を出します。その排泄部の中には種子が含まれるので、その場所でその植物は繁殖することになるのです。

つまり、植物は、動物のように動けないがために、周辺の環境を、“受動的に活用”して生きてきました。まず周辺の環境や生物によって何らかの状況が作られ、植物がそれに反応して、その状況をうまく活用することで、生物として必要な活動を行ってきた側面があるということです。

外敵に喰われないために備えたもの

外敵に対しても同様です。植物は動物のように、外敵が襲ってきても逃げることも、物理的な応戦をすることもできません。当然のことながら、襲われることを察知して、あらかじめ敵のもとに攻め入ることもできません。つまり、外敵の襲来に対しても、非常に受動的であり、守りの姿勢とならざるを得ないと言えます。

そのような植物が、外敵から身を守るために備えたものの一つが、「毒」でした。植物の体内に外敵にとっての毒を備えることで、喰われる範囲を抑えたり、外敵がその毒性を学習すれば喰われること自体を避けることができます。

例えば、ナス科タバコ属の植物が生産する「ニコチン」は、神経に作用する猛毒です。ニコチンは、タバコの根で作られて葉に運ばれて蓄えられます。その葉を、昆虫や小動物が噛じると、ニコチンを摂取することになり、神経毒による障害が起こります。ニコチンはタバコに含まれており、比較的身近であるためイメージしにくいかもしれませんが、実は猛毒です。その毒性は、青酸カリなどよりも強いとされ、成人ではタバコ2〜3本に含まれるニコチン摂取で致死量に達すると言われています。しかし、喫煙しても死なないのは、タバコに含まれるニコチンのすべてが、一度に体内で吸収されるわけではないからです。ニコチンを摂取すると、血圧上昇やめまい、吐き気や嘔吐を引き起こします。ニコチンは、このような強い毒性をもつため「毒物及び劇物取締法」によって規制されています。植物の中には、そのような猛毒を体内に備えているものもいるのです。

ニコチンのような強い毒性は示しませんが、渋み成分である「タンニン」も、捕食者から身を守るために備えられたものです。人間の場合は、ワインなどに含まれるタンニンを好んで摂取することはありますが、渋柿などの渋みのある食品は基本的には好みません。動物や昆虫も同様に、タンニンがある植物は食べることを避けるため、植物は喰われることを防ぐことができるのです。

このように、植物は、その毒の性質や強さに違いはあるものの、外敵にとって毒性のある物質を体内に備えることにより、身を守っています。逃げることも、物理的に対抗することもできないので、多少は喰われることになりますが、その喰った相手に不利益をもたらすことで、捕食者を遠ざけていると言えます。

 

では、その毒の正体とは何なのでしょうか。相手の体内でどのように作用し、不利益をもたらしているのでしょうか。実はその作用も、相手の機能を活用することで成されるものなのです。

第二章 防御物質としての毒の作用

結論から言うと、毒とは「強い生物活性をもつ化学物質」です。

植物の毒は、外敵がその植物を摂取することで、体内に浸透していきます。そしてその毒が、相手の体内で作用するわけですが、その際に「生物活性」という性質がはたらくのです。

生物活性とは、「生物に作用して、何らかの生体反応を起こさせること」です。“生体反応を起こさせること”という表現から、相手が生物として有する機能を活用して、痛みや炎症などの障害を引き起こすのであると想像できます。では、生物活性とは、具体的にはどのように作用し、相手に障害を引き起こすのでしょうか。その作用メカニズムをすべて紹介することは難しいため、ここでは代表的な以下の三つについて紹介します。

  1. 作動性物質による作用(信号伝達物質と似た物質が反応を引き起こす)
  2. 拮抗性物質による作用(受容体をふさぐ物質が反応を阻害する)
  3. 信号伝達物質を作らせないことによる作用(信号伝達物質の生成を阻害する)

 

まず、生体反応が起きるメカニズムについて簡単に説明します。生体反応は、信号伝達物質が、細胞に存在する受容体に結合した時に起こります。ちょうど、鍵が鍵穴にはまるようなイメージで、信号伝達物質が鍵で、受容体が鍵穴です。それらが結合した時に、痛みや炎症、覚醒や眠気などが引き起こされるのです。

Aのメカニズムは、相手生物が元来持つ信号伝達物質に似た物質が、相手の受容体にはまることで反応を起こすものです。つまり、毒は、信号伝達物質に似た物質ということになります。通常、痛みなどの反応は、何らかの外傷が生じた場合などに、それを知らせるために体内で信号伝達物質が分泌され、受容体に結合し、その痛みなどを感じます。しかし、毒の場合は、構造が類似した信号伝達物質を相手体内に浸透させることで、相手が本来感じなくてよかった痛みなどを感じさせることができます。このメカニズムをもつ物質の代表例は、鎮痛作用と共に血圧低下や呼吸抑制作用があるモルヒネや、先に紹介したニコチンなどです。これらを摂取してしまうと、本来起こる必要のなかった、血圧低下や呼吸抑制、吐き気や嘔吐が起こるということです。

Bのメカニズムは、受容体をふさぐ物質により、本来起こるはずだった反応を起こさなくするものです。イメージするなら、鍵穴に異物をつめて、鍵をささらなくしてしまうということです。この場合、毒は鍵穴につめこむ異物ということになります。代表例はカフェインで、カフェインは、アデノシンという物質の受容体をブロックします。アデノシンは、眠気を引き起こす、痛みを誘発する、血管を拡張するなどの作用を持つため、カフェインの摂取によって、本来起こるはずのこれらの作用が起きなくなります。カフェインが眠気覚ましとして作用するのは、このメカニズムによるものだったのです。毒ではなく薬の話ですが、あるアレルギー薬のCMで「レセプターブロック」というキーフレーズが使われています。レセプターとは受容体のことなので、そのCMのアレルギー薬もこのメカニズムと同様であると考えられます。

Cのメカニズムは、信号伝達物質ができる過程を阻害することで、その物質自体を作らせないようにするものです。鍵と鍵穴の例でいうならば、鍵自体を作らせないようにするということです。信号伝達物質は、前駆体ぜんくたい(ある物質を作る前段階の出発物質)に酵素が作用して作られますが、その酵素を阻害して生成を阻害します。代表例は、解熱鎮痛作用がある薬として用いられる、アスピリン(アセチルサリチル酸)などです。

 

このように毒は、相手が有する生体機能を活用して、本来起こるはずのなかった反応を引き起こしたり、反対に起こるはずだった反応を阻害することで、相手に障害を引き起こします。植物は、そのための物質を体内に備えており、攻撃を受けた際に相手の体内に浸透させることで、毒性のある作用を引き起こさせているのです。攻撃相手に応戦して物理的に噛みちぎるわけでもなく、先制攻撃を仕掛けるわけでもありません。攻撃してきた相手に自己の有する物質を浸透させ、相手が元々もっている生体機能を活用して、相手に不利益を与えているのです。

さらに植物は、より効果的に自己を防衛するために、毒という物質を単に備えるたけではなく、他にも様々な戦略を有し、その戦略を実行するための体制も整えています。次章では、その植物の防御戦略や体制について紹介します。

コラム:毒にも薬にもなる

前章で紹介したように、毒の作用は「化学物質による生体反応」によってもたらされるものです。その作用は、あくまでもただの生体反応であるため、その反応自体が良い・悪いという属性を持っているわけではありません。したがって、その生物や状況にとって都合が悪い反応であれば毒として認識され、良い反応であれば、私たちが病気の治療に使う「薬」として認識されます。先に紹介した、それぞれのメカニズムにおける、Aのモルヒネ、Bのアレルギー薬、Cのアスピリンが、薬として用いられているものです。

他の例としては、抗がん剤が、薬として用いられる一方で、身体にとって害となる副作用も伴うことは一般的に認識されていることではないでしょうか。がんは、細胞が異常分裂して止まらなくなる病気です。抗がん剤に用いられる物質は、この細胞分裂を止めてしまうことで、がん治療に対してプラスに作用します。しかし、その物質は、がん細胞と正常細胞を区別することが出来ないため、正常細胞も含めた細胞の分裂を止めてしまいます。この正常細胞に及ぼす影響が、副作用としてあらわれてしまうのです。しかし、がん細胞は非常に活発に分裂しているため、がん治療に対して全体としてはプラスに作用するため、薬として用いられているということになります。

毒とは化学物質であるため、それ自体が良い作用を及ぼそう、悪い作用を及ぼそうという意思や善悪の属性を持っているわけではありません。それを見る者の、見方によってその判定が成されているのです。化学物質の反応自体は、中立的なものです。

私たちの身の回りでも、ある視点では悪い作用を及ぼすものでも、別の視点では良い作用を及ぼしているものもあるかもしれません。逆もまた然りです。それをどのように捉えるかは相対的な問題であり、そのものの性質は同じでも、見方によって毒にも薬にもなるということが、多々あるのかもしれません。例えば、組織や集団における個人の評価などがそうでしょうか。ですので、毒がある方が、見方を変えれば薬になるという点で、ポジティブに捉えられてもいいのかもしれません。

第三章 植物の防御戦略

植物は、毒を体内に備えることを、身を守る手段の一つとしています。ただ、植物の生き抜く強さは、単に毒を有していることにあるのではなく、外側からは見えにくい内側に有する戦略や体制にあると言えます。ここでは、その植物の内に秘める強さ、戦略や体制について紹介していきます。

シャープな強さ

防御物質の生産体制

生物は、代謝によって、その活動に必要な物質を作り出しています。代謝とは、外界から取り入れた物質を素材として行う、一連の合成や化学反応のことです。

生物の体内には、この代謝によって物質を生み出すための生産ラインのようなものが存在します。その生産ラインは、大きく「一次代謝経路」と「二次代謝経路」に分類されています。一次代謝経路は、生物が“最低限生きていくために”必要な物質を作りだすもので、どの生物種にも共通して見られるものです。他方で、二次代謝経路は、生物が“よりよく生きていくために”必要な物質を作り出すもので、植物やカビや細菌類などに特異的に存在します。そして、これまで紹介してきた毒あるいは薬の成分のほとんどは、二次代謝経路で作られているものなのです。

二次代謝経路は、一次代謝経路に比べて、生物の基本的な細胞活動に必須ではありません。したがって、かつてその二次代謝経路の意義がはっきりとしていなかった時代には、生物にとってはそれほど重要ではないと考えられていました。そのような背景で、“二次”という副次的な呼び方がされているのです。

しかし、ここまで見てきたように、動けない植物が外敵から身を守るためには、二次代謝経路から生み出される物質が大いに役立っていました。つまり、生命活動には必須ではなくても、生き抜くためには必要なものだったのです。

強い生物活性

このような二次代謝経路で作り出される物質は、強い生物活性を有しています。生物活性とは先に述べたように、「生物に作用して、何らかの生体反応を起こさせること」です。

先に紹介したニコチンは、血圧上昇やめまい、吐き気や嘔吐を引き起こします。そしてその毒性の強さは、青酸カリなどよりも上で、その全てが吸収された場合、成人ではタバコ2〜3本に含まれるニコチン摂取で致死量に達します。このような少量で、捕食者に強い障害を与えることができるのです。

他にも、ハシリドコロなどのナス科植物に含まれるアトロピンという物質は、人間を含む動物の副交感神経を遮断します。これを摂取してしまった動物は、瞳孔が散大して目が見にくくなったり、心拍数が増加したり、中枢が興奮し、めまいや幻覚などの症状があらわれます。このような症状を経験した動物は、二度と同じ植物を食べようとはしないでしょう。

このように、植物などに特異的な生産体系である二次代謝経路で作られた物質は、その強い生物活性で、外敵に確実な不利益をもたらすことができます。それによって、植物は自己の身を守ることができるのです。

 

二次代謝経路によって生み出される物質が備えるのは、このような「強さ」だけではありません。それによって生み出すことが出来る物質は非常に多岐に渡り、植物は種ごとに異なる物質を生産し、それを体内に備えています。つまり、二次代謝経路という生産体系によって植物は、他者との差別化にも成功しているのです。そして、この差別化、すなわち他者との違いを生み出すことは、生き抜くための重要な戦略なのです。

「違い」は生き抜く戦略の重要要素

植物が、二次代謝経路によって多種多様な物質を生み出し体内に備えることは、防御の特性の違いをもたらします。そして、備える物質の毒性の強さだけではなく、特性の「違い」も、厳しい生存環境の中で生き抜くための、非常に重要な要素となるのです。

仮に、特定の非常に強い毒性を持つ物質を、あらゆる植物種が備えたとしても、それは大きなリスクを内包することになります。そのリスクとは、その毒に耐性をもつ外敵が現れた時に、それを備えた全ての植物種の防御が一気に崩されてしまうことです。作用としてのいかなる強さを有していても、その耐性をもつ外敵が表れることは、自然界では珍しくありません。そして、そのような毒への耐性は、遺伝子と共に他の生物に伝播することが可能です。また、ある特定の防御性質を備える生物種が多いほど、それに対峙する外敵が多くなるので、その耐性を備える外敵が表れる確率が高まります。したがって、いかに強い防御物質を備えていても、同じ物質を備える他者が多いほど、その防御が破られてしまう可能性が高まってしまうということです。自己の直接的な外敵が耐性を備えられなくても、それを備えることに成功した他の外敵の遺伝子と共に、その攻略法とも言える耐性が出回ってしまう可能性があるからです。

したがって、より堅固な防御体制を築くためには、他者が有していない性質を有するということも重要なのです。独自性の高い性質を有することで、それを突破される可能性を下げることができます。反対に、いかに強い作用を有する防御物質でも、それが他の生物種も有するようなマジョリティな物質であるほど、突破されてしまう可能性は大きくなると言えます。

 

このように植物は、二次代謝経路という植物などに独特な化学物質の生産体制により、防御の強さと共に、他者との差別化に成功しています。強さだけではなく、差別化により生み出される他者との違いは、厳しい生存環境で生き抜くためには必要な戦略でした。このような戦略をもって、コーヒーもお茶もタバコも、生存してきたのです。本書では、この強い生物活性で特定の作用を及ぼす、他者とは違う植物の防御の特性を、鋭い一点の強さを持つという意味で「シャープな強さ」と呼ぶことにします。

リベル:生きていく上での強さとは何なのだろうか。逆に強い一点があることで、目立って攻撃されたりもする。最近は、弱点をネタにする人もいるし、弱さをさらして協力を得る人もいる。「シャープな弱さ」が、生存上優位に働くということもあるのではないだろうか。
リベル:noteで追考しました。強さとは何なのか、強い・弱いという表現は正しいのか、という点から考えてみています。その上で、弱者はどう戦い、繁栄への道をたどるきっかけを得ればいいのか、生物の生存競争の視点から考えてみています。『繁栄への道 〜強さの解釈、弱者の勝ち方〜』

ただ、植物が備えるのは、このようなシャープな強さだけではありません。これは植物だけではなく生物全体に言えることですが、生物はその内側に、シャープな強さとは一見相反する、「多様性」も内包しているのです。
では、その多様性の内包は、生物が生き抜いていく上で、どのような意義をもつものなのでしょうか。

多様性の内包

多様性を内包する意義

生物の進化は、「自然選択(自然淘汰とうた)」によって成されると考えられています。生物は、基本的にその親の遺伝情報を引き継ぎますが、突然変異によって親とは異なる遺伝的特性を有することがあります。その突然変異が、その個体の周辺環境に適していれば、生存に有利にはたらき、適していなければ不利にはたらきます。そして、当然のことながら、周辺環境に対して有利な遺伝的特性を備えた個体が生き残り、その遺伝的特性が後世に残されていくことになります。このように、生物の進化(遺伝的特性の変化)は、環境に依存し、環境が決定していくことになります。その生物の遺伝的特性を決定するのは、生物の意思などではなく、あくまでも周辺の環境ということです。尚、ここでいう環境とは、大気や水だけではなく、動物や昆虫なども含む、その生物を取り巻く周りの状況のことを指しています。

このような進化のメカニズムにより、生物の進化は、周辺環境が大きく変化した時に起こりやすくなると考えられています[2]。なぜなら、環境がそれまでと同じであれば、既に環境に対する生物の適用は成されているので、それまでと異なる遺伝的特性の個体が選択されるとは考えにくいからです。環境が変化した時にはじめて、その変化した環境に適した、それまでのスタンダードとは異なる遺伝的特性を有する個体が、選択されることになるのです。したがって、周辺環境の変化が起きた時、そこに生きる生物も進化・変化していくのだと考えられます。

このような生物の遺伝的特性は、ゲノムの中に含まれる遺伝情報に記録されており、その遺伝情報に基づいて生物は生み出されています。しかし、ゲノムの中で実際に使われている遺伝情報は、ごく一部だと言われています。そして、使われていないゲノム領域は、環境変化が起きた時などに有効になると考えられています。普段は眠っている領域が、周辺環境に変化が起きた時に目を覚まし、その個体の変化に対して寄与しだすのです。つまり、ある時点では存在意義を見いだせず無駄に思える領域も、変化する環境を生き抜いていくためには、必要であるのだと考えられるのです。

このように、一つの個体の中に多様性を内包しておくことは、長く生きていくためには決して無駄ではなく、必要な備えであると考えられます。反対に、ある環境、ある時点では圧倒的な強さを誇っていても、多様性を内包していなければ、それは長期的な目線での強さとは言えない可能性があると考えられます。

遺伝子は平時も変化している

その生物の遺伝的特性が大きく変化するのは、環境が変化した時であると考えられますが、形質に影響しないところではランダムに遺伝子の変化が起きていると考えられています[2]。つまり、平時の生物は一見なにも変わっていないように見えて、見えないところで遺伝子が変化し、多様性が内に蓄積されているということです。ちなみに、このような「遺伝子のDNA(塩基)配列上の突然変異(置換)は、一定の確率でランダムに起こる」という理論を「中立説」と言い、これは日本人研究者の木村資生もとお氏によって発見されました。

このような変化や多様性の蓄積が最終的な生き残りに有利にはたらくかは、環境が選択することなので、その時点で良し悪しを判断することはできません。しかし、このような平時の変化によって、個体ごとの内包的な違いが生み出され、種としての多様性を備えることにつながります。多様性は、変化への適用性の高さにつながるため、平時の多様性の蓄積は、種としての生存の可能性を高めていると考えられます。このように常に変化し、多様性を蓄積する体制は、植物を含む生物が生き抜くために備わった機能なのだと考えられます。

第四章 内の強さとなる「毒」と「違い」

動けない植物の生き方

植物は、動物のように素早く動くことができないため、外敵が襲ってきても、逃げることも応戦することもできません。そのような植物が生きていくにあたっての基本的な姿勢は、周辺の環境を受動的に活用することでした。食料確保においても繁殖においても、そして外敵への対抗においても同様であると言えます。

植物が、外敵の攻撃を防御するためにとった方法の一つは、毒を体内に備えることでした。植物の毒は、相手の攻撃を起点に内部に浸透し、相手が元来持つ生体機能を利用して生体反応を引き起こすことで作用します。これも周辺の環境を、受動的に活用した方法であると言えます。

その毒は、植物などに特異的な二次代謝経路という生産体系により、生み出されます。二次代謝経路で生み出される物質は、生命活動には必須ではなく、人間側の視点では当初副次的なものとして認識されていました。しかし、そこで生み出される物質は、植物などが厳しい環境で生き抜いていくにあたっては必要なものでした。

その生産体系では、強い生物活性を有した様々な物質が生み出され、植物は、種ごとに違う防御物質を備えることができました。この違いは、外敵に防御を突破されにくくするという意味で、重要でした。したがって、強さだけではなく「違い」も、生き抜くための戦略の重要な要素であると考えられるのです。

また、植物に限らず生物は、ゲノム内に使われていない遺伝情報を内包しており、これは環境変化の際に発動すると考えられています。つまり、外側からは分からない多様性を、内側に備えているのです。また、環境変化が少ない生物の形質変化が起こりにくい平時にも、形質には表れない部分の遺伝子の変化が起きていると考えられています。これによって、同一種内の個体間で小さな違いが蓄積されていき、多様性が生まれ、環境変化の際の種の生存の確率を上げているのだと考えられます。

植物は、シャープな強さをもつ「毒」を体内に備えると同時に、「違い」を内に蓄積し続け多様性を備えることを生存戦略の一つとして、攻撃してくる外敵で溢れる環境を、生き抜いてきたのです。

個人や組織にとっての「毒とは何か」

植物の生き方は、他者を攻撃することや争うことを好まず、しかし他者からの攻撃を避けられない環境に身をおいている個人や組織にとっては、一つのモデルになるものなのではないでしょうか。ここでは、ここまで学んできた植物の防御戦略が、個人や組織にどのように照らし合わせられるのか、少しだけ掘り下げて考えてみたいと思います。

芸術家の岡本太郎氏は、『自分の中に毒を持て』という書籍を著しています[3]。この著書は、岡本氏の新たなものを生み出したい、社会を変えたいという情熱が、決してポジティブではない表現とともに著されたものです。「毒とは何か」という問いには触れられていませんが、岡本氏自身が毒を持っていたとするならば、ヒントとなりそうなこんな考え方やエピソードがありました。

「ぼくは若い頃から、「出るくぎは打たれる」ということわざに言いようのないドラマを感じていた。何かそこに素通りのできない問題がある、という思い。」

「「出る」のは固くて冷たい釘ではない。純粋な人間の、無垢むくな情熱の炎だ。」

「しかし、小学校に入ると、もう忽ちたちまち打ち叩かれた。システムの中で絶望的に叩きつぶされるのだ。ぼくが小学校一年生を四つも学校を変え、転々としたのは、当時の先生、教育制度、その周辺の条件に抵抗した結果である。」

 

植物の毒は、相手の体内に侵入し、相手が元来もつ機能を利用して生体反応を起こさせ、障害を与えるものでした。岡本氏のエピソードでは、岡本氏がもつ周囲とは違う考え方や振る舞いが、学校あるいは先生をパニックに陥れたのだと推察されます。語弊を恐れずに言えば、学校が岡本氏という毒を体内に取り込んだことで、学校の秩序が乱されるという障害が学校にもたらされました。その結果、岡本氏は、さらに攻撃を受け、学校を出ていくことになります。ただ、さらなる攻撃を受けたのは、学校が子どもを受け入れることが義務であるため、岡本氏が学校に障害をもたらしていると感じても追い出せず、矯正する方向に動いたためだと考えられます。これが学校側が自由選択な環境に置かれていてば、岡本氏を体内に留めたり、再度喰らう必要がないため、学校側は岡本氏を取り込むことを断念し、双方穏便に事が済まされたのではないでしょうか。

このエピソードを踏まえると、人間界での毒とは、周囲とは違う考え方や価値観であると考えることができるのではないでしょうか。そしてその毒は、違いとともに強い生物活性も備えていること、つまり「シャープな強さ」を有していることが肝要です。そのような毒を持つことで、他者が取り込もうと迫ってきても、その他者の内部で障害を引き起こすので、相手は断念することになります。また、そのような毒性のもとに生み出されたサービスやコンテンツは、模倣という攻撃に対しても、対抗できると考えられます。なぜなら、そのような毒性のあるものを模倣した相手は、自己の考え方や価値観との間に矛盾が生じ、その一貫性を維持できず、質の低下を招き、似て非なるものになる可能性が高いと考えられるからです。あるいは、無理してその毒性を維持しようとすると、自己矛盾により、心身を蝕むことになるのではないでしょうか。

ここで付言しておきたいのは、そのような「毒」や「違い」を備えることは、必ずしも孤立には結びつかないということです。植物は、動物や昆虫などの外敵との攻防の一方で、動物や昆虫に種子や花粉を運んでもらったり、光合成によって二酸化炭素を消費すると同時に酸素を生み出すなど、周辺の環境との「共生」もしています。リベルの『サンゴの選択 〜小さな力で一つの世界を作る方法〜』では、小さなサンゴと褐虫藻、サンゴガニなどが共生し、サンゴ礁という一つの世界を作ると共に、オニヒトデなどの外敵へ対抗していることも学びました。このように、違いは孤立を生み出すのではなく、その違いを活かした共生のきっかけとなると考えられます。毒は、他者にポジティブな効用をもたらす、薬にもなるからです。

 

このように、人間界の個人や組織にとっても、毒を「周囲とは違う、シャープな強さを有する考え方や価値観」と定義することで、防御に有効に作用しそうです。そのような毒を、内側で磨き育てていくことが、生き抜いていくにあたって有効に作用すると言えそうです。ただ、そのような毒が仮にうまく作用したとしても、変化の時に備えて、内側に多様性を蓄積し続けることも怠ってはいけません。個人や組織は、その時点で役に立つか分からなくても、違うことを取り入れたり身につけることを続けることが、重要であると考えられます。そうしてシャープな強さと多様性を内包した体質を築くことが、長い目線での繁栄につながっていくと言えるのではないでしょうか。

 

最後に、斉藤先生にこんな問いを投げかけてみました。

「動けない植物がここまで生存できたのは、毒で外敵を寄せ付けないなど、周辺環境をコントロールすることに成功したことにあるとも言えるのではないでしょうか。植物が生き抜いてこられた秘密について教えてください。」

 

斉藤先生:植物は、周囲をコントロールすることは、できていないと思います。周囲の環境に対して、自分自身をなんとか適合させているという方が、正しい表現だと思います。植物は、周囲をコントロールするというほど猛々たけだけしくはなく、もっと慎みつつしみ深いように感じます。

植物は激烈な環境の中で、なんとか周りとうまくやりながら、自己のパフォーマンスを出せるように生きています。環境が変化しても、嫌な奴がきても逃げ出すわけにはいかないのです。その中で備えた身を守る手段の一つが、化学的な防御でした。

ただ、いかに強い化学的防御を備えても、その防御作用が及ばない周辺環境からの攻撃や影響はあります。攻防戦はチャンスの問題でもありますから、一方的に勝てるわけではなくて、負けることもあるのです。そのような環境において、多様性がない生命体は脆弱です。

例えば、稲作などの農作物の栽培において、ある特定の病原菌に対して強い抵抗性をもつ品種だけを栽培することがあります。その病害による被害が甚大なためです。しかし、そのような栽培方法では、それに耐性をもつ病原菌が現れた際に脆弱であり、実際に甚大な被害をもたらしてしまいます。しかし、遺伝的に多様な品種を栽培していれば、部分的には被害は受けても、残ったものが次に繁殖して行くことにより、生存し続けることができるのです。そのような多様性を備えた生命体の方が、生きていく上では強いのです。

 

〈参考文献〉

  1. 斉藤和季著(2017)『植物はなぜ薬を作るのか』(文藝春秋)
  2. 吉村仁著(2009)『強い者は生き残れない』(新潮選書)
  3. 岡本太郎著(2017)『自分の中に毒を持て〈新装版〉』(青春文庫)

 

 

 

 

 

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