シェフの休日を覗きみるテレビ番組があります。毎日のように仕事で料理をしているシェフが休日になにをしているのか、番組がついていくのです。まだ何回かしか見ていませんが、休日は料理から離れてどんなことをして過ごすのかと思ってみていると、だいたい料理をしていました。やっぱり料理が好きだから、と言ってしまえばそうなのかもしれませんが、仕事の料理と休日の料理とではすこし雰囲気が違うようでした。ある人は奥さまのママ友を呼んでホットプレートを使って料理をして、気づいたらその場が料理教室のようになっていたり。ある人は、マルシェに出かけて新しい食材を物色し、家に帰って少し狭めのキッチンで家族とご飯を作って食べていたり。またあるインドカレー屋の店主さんは、お店では使わない食材の鰹節とコンブを使って出汁をとって、料理をしていました。でも完成した料理は、やっぱりというべきか、スパイスの効いた料理です。鰹節とコンブからとった和風出汁と、スパイシーな調味料を見事に合わせて作ってみせていました。
リベルでは、昨年の12月から今年の2月末頃までのおよそ3ヶ月間、テーマを「いいライフスタイルを考える」とおいて読書会を開いていました。なんともふんわりとしたテーマですが、ここ1年あまりの急な変化に伴って、これからどんな生活をしていこうかと考えるときでもあったのではないかと思い、始めてみました。
テーマのセンスはさておき、参加者のみなさまは、それぞれにライフスタイルに関連づけて本を持ってきて読んでいたのではないかと思います。自分だけではたどりつかないような視点や本に出合うことができて、いい時間を過ごさせてもらいました。
ただ一方で、いろいろな視点や本がありすぎてライフスタイルとは一体何なのだろうという疑問が湧いてきたり、生き方のような話に及ぶことも多く、やっぱりライフスタイルとは何なのだろうかという疑問が湧きました。今回は、読書会で出た話題を共有しながら、ライフスタイルというものについて考えてみたいと思います。それによって、これからさきも時折考えていくであろう、自分にとってのいいライフスタイルについて、考える視点のようなものが得られればと思っています。
読書会の本や話題
リベルの読書会は、ジャンルに制限などはなくそれぞれが読みたい本を持ってきてその場で読んで、感想をシェアするという流れでやっています。事前に読書をする必要もないので、ふらっと訪れて、思ったことをしゃべって、他の人の話も聞いてそのまま帰っていくことになります。実際にはオンラインなので、Zoomを開いて、読んで、閉じるだけ、です。
どんな本が持ち寄られたのか、まずは紹介したいと思います。読書会のあとに任意で読書感想を送ってもらっているのですが、そこでいただいた感想の本タイトルは以下のようなものです。ちなみに読書感想はこちらに載せています。
生の短さについて / 数学する身体 / 学びとは何か / セルフ・コンパッション / 愛するということ / ムーミン谷の冬 / Humans / ぜんぶ、すれてば / 笑いの哲学 / 愛するということ / IKIGAI / モモ / 快適睡眠のすすめ / ストレスフリー超大全 / 「待つ」ということ / その島のひとたちは、ひとの話をきかない / 彼岸の図書館 / 思想の月夜 / 縁食論 / 評価と贈与の経済学
ライフスタイルの基本である、食や住に関しても本が読まれていましたが、そこから展開される話は少し深いものでした。たとえば、食に関しては、何を食べるかだけではなく、どんな人と食事をして、それによって何が生まれるのかという話になったり。住に関しても、どんな家に住むかということではなく、どんな場所に住むかということに話が及びました。どんな場所とは、たとえば「こんな景色が見える場所」ということであり、駅から徒歩何分といった立地の話ではなく、自分の身をおく場所という意味合いのものでした。また移住した人の本では移住先でどんなことを始めたかが書かれており、なんと図書館を開いて人が集まる場をつくっているということでした。そのなかでは、人はどんなことを求めるのかということについても書かれているようでした。ほかにも、学び、笑い、時間の使い方などにも話が及びました。
ライフスタイルとはなんなのか
いろいろと思い返しながら、こうまで話が広がっていくライフスタイルとはなんなんだろうと振り返っていると、読書感想のなかにこんな言葉を見つけました。それは、「ちょうどいいを探す」というものです。
思えば、住む場所に夕日が見えることを求めるのであれば、雄大さを感じたり、一日の終わりを感じることを欲しているのかもしれません。食ではなく食事に関心が及ぶということは、食を介したつながりのようなものを欲しているということなのかもしれません。移住先で図書館を開いたのは、人のつながりを求めていたのかもしれませんし、その場所では図書館を開くことがなんだかしっくりきたのかもしれません。関心をもって考え始めたそのライフスタイルは、欠けていることが薄々わかっているところを埋めてくれるものであると言えるのかもしれないと思いました。
そう考えるとライフスタイルとは、それが自分とセットになってはじめて、自分がちょうどよくなるものに思えてきます。食事の時間を大事にしてみると、たとえば家族との理解が深まって、関係性のちょうどいい毎日が送れるようになったり。学びを取り入れてみると、好奇心が満たされたり悩みが解消されたりして、ちょうどいい頭のすっきり具合になったり。自然の景色をみる時間があると、一日の棚卸しができたような気がして、こころがちょうどよくなったり。そんな風な調節がなされるように思えました。
言い換えるとライフスタイルとは、自分を整わせるための様式と言えるのかもしれません。自分がフィットする型のようなものがあり、そういった型や様式のなかに自分をおくことで、ストレスが軽くなったり、ときには発想が浮かんだりして、充足した日々を過ごせるようになるのではないかと思いました。
なぜ生き方に話が及ぶのか
ライフスタイルの読書会では、ごく自然に「生き方」の方向へも本や話題が及びました。生活と、生き方や人生とは少し違うようにも思えますが、なぜそのような方向へ進んでしまうのでしょうか。
それは、自分を整わせる先にみているものは、自分の生き方や人生だからなのではないかと思いました。自然を感じられるようなところに住みたいと思うのは、なにかに縛られるような生き方はしたくないということかもしれません。生活のなかに学びの時間をとりたいと思うのは、主体性をもって生きたいとか、少し前とは違う自分であることを実感して生きたいということなのかもしれません。あるいは、会社の近くに住み、テレビも置かない部屋で生活するというのは、それはやっぱり仕事で成功したいということなのかもしれません。
ライフスタイルは毎日のくり返しとなりますが、そのなかに人生の片鱗をうっすらとみているのではないでしょうか。その毎日のくり返しは、自分にとってのたしかな積み重なりとなるので、積み重なる土台となる生き方や積み重なりそのものであるといえる人生について考えることになるのは必然であると思えました。
ライフスタイルは変わっていく自分だけのもの
ライフスタイルが自分を整わせる様式だとするならば、それは数年おきくらいに変えたいと思うことになるはずです。なぜなら、たとえば5年前の自分と今の自分とでは、身体も、考え方や価値観も異なると思うからです。また、家族ができたならば家族の成長も影響してくることでしょう。
最初に紹介したシェフの一人、カレー屋の店主さんは、45年もの間、お店を営んできました。鰹節やコンブなどに関心をもちはじめたのは、年齢を重ねたことが大きいと言います。そういったやさしい味が身体に合うようになったということでしょうか。しかしながら鰹節やコンブの出汁を使っても、出来上がる料理は、スパイシーな料理です。そこはカレーに魅了されてきた人生ですから、欠かせません。変わるところもあれば変わらないところもある、でも確実に変わっていくもの、それがライフスタイルであるといえそうです。
そして、身体もこころも人それぞれ異なるのですから、ライフスタイルというのはきっと自分だけのものなのでしょう。流行り廃りなどというものの枠の外にある、自分だけが合うと感じられるものということです。そして、前は合っていたはずなのに違和感を感じ始めたら、それは自分が変わってきたことを意味するのかもしれません。そうしたら、また少しずつ探索して変えていくのもいいのでしょう。ライフスタイルとは、自分自身や自分の望む生き方を映す鏡でもあるのではないかと思いました。
また時間をおいて、ライフスタイルにやんわりとテーマにおいた読書会を開いてみたいと思います。
〈読書会について〉
読書会の情報については、FacebookページやPeatixをご覧ください。申込みをせずに直接訪れていただいても結構です。ただ、たまに休むこともありますので、日程だけはご確認いただければと思います。
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読書会の形式や最近の様子については、こちらに少し詳しく書いています。
(吉田)
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