2021.03.06

サイズの葛藤。

個人化することと集団化することの間には葛藤があるように思えました。サイズの葛藤とも言えるのかもしれません。ゾウもネズミも人間も。

 個人化することと、集団化することの間には、葛藤の関係があるように思えます。

 集団でいるといまいち力を発揮しきれない気がして、独立することを選択することもあるかもしれません。あるいは、ついつい頼ってしまうからと成長をするために抜け出すとか、冒険心が抑えられなくてというのもあるかもしれません。はたまた、煩わしいことが多すぎてということもあるでしょう。

 しかしながら、集団から離れて個人で生きていくとなると、不確実性が高まることになります。自分がいまいち調子が出なかったりしても、集団であれば誰かが頑張って補ってくれますが、個人ではそうもいきません。これは個人の頑張りうんぬんだけではなく、確率や運の問題もあると思われるため、個人化していくほど不確実性が高まると考えられます。
 不確実性が高くなるとどうするかというと、お互いの助け合いを求めることになります。元の集団に戻らないまでも、なんらかの集団を探すことになるのは少なくないのでしょう。つまり、個人で生きていこうとするほどに、集団でいることを求めていくという葛藤が生まれます。

 省エネや成長、あるいは長期の生き残りに関しても、葛藤があると思われます。
 少し人間から視野を広げて、動物の話をさせてください。動物はサイズが大きくなるほど、エネルギーの消費量が大きくなります。これは違和感なく受け入れられると思います。ネズミよりもゾウの方が、食事をたくさんとり、たくさん代謝をしてエネルギーを消費しています。
 しかし、体重1kgあたりに換算すると、どうでしょうか。同じ体重あたりであれば、ネズミもゾウも同じだけのエネルギーを消費するように思われます。でも、そうではないのです。
 ネズミやネコやヒトやゾウの体重1kgあたりのエネルギー消費量をグラフ化してみると、大きな動物であるほど1kgあたりのエネルギー消費量が少なくなることが分かっています[1]。どれくらい少ないかというと、体重の3/4乗に比例して少なくなるのです。イメージがつきにくいので実際の動物で想定してみると、体重4トンのゾウと体重40gのネズミとでは、体重差は10万倍ですがエネルギー消費量は5600倍しか違いがありません。つまり、1kgあたりに換算すると、ゾウはネズミの5.6%しかエネルギーを使っていないことになります。細胞のサイズは動物ごとに違いはないのだといいます。ですので、ゾウの細胞はネズミに比べて、5.6%しか働いていないと考えられるのです。
 これは驚くべきことです。同じような形態や機能をもち、同じ哺乳類で活動も似ていると言えるゾウとネズミなのに、エネルギーの消費量が全く違うのです。確かにネズミの方がせかせか動いていますし、食事の頻度も高いようです。ゾウは、ゆったりしています。
 この事実を『ゾウの時間 ネズミの時間』で著した本川達雄先生も言っているのですが、これは人間社会の例えば企業活動などにおいても同様のことが言えると思えます。サイズが大きくなればそれほどあくせく働かなくても回っていきます。他方で、小さなサイズではそうはいきません。全員が全力を出さなければ存続が困難です。
 大きい方が省エネです。そのせいもあってか、ゾウの方が長生きです。動物としては、サイズが大きくなるほど省エネで長生きできるので、個体としての生存戦略としては大きい方がいいのかもしれません(ただし、種としての生存戦略としては必ずしも大きい方がいいとは言えません)。
 しかしながら人間の場合は、省エネの方がいいとは言いいきれないと思えます。もちろん健康を害さないのが一番なのですが、個人の成長という意味で、サイズが小さなところで全力を出すことも生存戦略としては必要になってくると思われます。あるいは、単純にそういう人生をおくりたいということもあるでしょう。
 ここにも個人化と集団化、あるいはサイズの大小の葛藤がみられます。健康的に生きたいから大きな集団で生きる方がよさそうだけど、長期でみると小さな集団や個人で生きるときも必要かもしれない。反対に、刺激的な人生を送りたいから小さな集団や個人がいいけど、エネルギー消費が激し過ぎるからそれだけではムリがくるかもしれない。そんな葛藤です。

 個人化と集団化には一長一短がある、というだけで済む話かもしれませんが、それらの間には生きる上での葛藤があるように感じられました。ゾウもネズミも、それぞれ理由があってあのサイズで生きています。


〈参考図書〉
1.本川達雄著『ゾウの時間 ネズミの時間』(中公新書)

(吉田)

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