2020.06.24

大権力の裏の闇。

 国家が海賊を利用していたと聞いたら、「とんでもないことだ」と思うのではないでしょうか。海賊王を目指す大人気漫画の中の話ではありません。どうやら本当に、国家と海賊は結託していたことがあるようなのです。

 16世紀のイギリスは、スペインやフランス、ポルトガルと比べると貧しい二流国でした。
 人口は400〜450万人程度で、それに対してスペインは1000万人、フランスは1600万人であり、戦争で勝ち目はありませんでした。国を守るために富国強兵を実行するにしても、どうしても資金が必要です。
 しかし、外貨を稼げる輸出品は羊毛や毛織物に限られ、大きな利益を上げられませんでした。どうにかして資金を捻出しなければいけません。
 そこでエリザベス女王が目をつけたのが、勇猛果敢に海にくり出し略奪行為をする「海賊」だったのです[1]。

 女王は有能な海賊に目をつけていきます。そして出資をしていくのです。
 表面的には民間主導のシンジケートですが、秘密裏に女王も加わっていました。出資は必ずしも現金ではなく、王室の帆船を差し出すこともありました。そのような記録が、奇跡的にロンドンの大英博物館資料室で1929年に発見されています[1,kindle400]。
 女王は他国にバレないように海賊を重用し、たとえバレても知らないふりを決め込んでいたと言います。

 海賊がもたらすマネーは時に莫大でした。
 なかでも女王が最も頼りにしていたフランシス・ドレークは、国家予算の1.5倍にもあたる30万ポンドを女王にもたらしたと考えられています。
 女王は、ドレークを英雄としてまつり上げ、ナイトの称号を与えます。フランシス・ドレークは、サー・フランシス・ドレークになり、海賊出身のナイトが誕生したのです。
 ドレークは、イギリス人初の世界一周という偉業を成し遂げました。しかし本業としては、ライバル国であるスペインやポルトガルから船・食料・財宝を奪ったり、上陸先でも同様の略奪行為をしていました。
 それでも、イギリスや女王にとっては、国家に富をもたらす英雄であったのです。

 現在でも海賊は、悪者でありながらどこかかっこいいイメージもあります。それは、近代化が始まる16世紀頃から今につながる歴史の中で、虚飾されたからかもしれません。
 しかし、確かに世界一周を成し遂げたドレークは、控えめに言ってスゴイと思わざるを得ません。大きな飛躍や発展の裏には、悪のエネルギーが原動力になっている側面もあるのかもしれません。


〈参考〉
1.竹田いさみ著『世界史をつくった海賊』(筑摩書房,2016)

(吉田)

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