参加者に任意でいただいた読書感想を掲載します。9日(水)は6名、10日(木)は4名、12日(土)は4名、13日(日)は5名の参加でした(主催者含む)。
土曜日の「質問「 」について考える時間。」の質問は、
眠っているとき思考は存在しますか
田中未知著『質問』(文藝春秋)
でした。
3月9日:読みたい本を気ままに読む読書会
おおはらさん『死とは何か』(池田晶子)
(本の感想)
池田晶子という人は、世の中に対してとてつもなく厳しい視点を持っています。しかし、私にはこの人が、その知性で考え抜いたことをもってして、どう生きるかを迷う人々を助けたいという希望を持っていた、と感じています。そういう意味では、人間に対するやさしさを感じることも私にはあります。これは憶測でしかなく、私の願いかもしれません。
池田さんが言っていることは非常に難解で、「この点がこうだ」という風に説明できる言葉を私は持ちません。ただ思うのは、「人は考えることができる」という希望を、彼女の死後もなお示してくれていることに、「死とは何か」の答えがあるのかもしれない、ということです。
(読書会で感じたこと)
読書会に参加したことはほとんどありません。
私はモノを読んだり、書くことで、自分の考えを表すことのほうが好きだと感じていましたが、新たなものを見つけることができました。
それぞれが「何者でもない自分」として存在しているように感じました。また、本というものを通じて、それぞれが感じたことを話すということは、互いの気持ちの「やりとり」というより、「共有」しているという感じがありました。そしてそれは、たいそう豊かなものだとも思いました。
とてもよい経験をしました。
少々大袈裟でしょうか。でもすなおな気持ちでお伝えします。
吉田さん、今日ご一緒させていただいた方、ありがとうございました。
おおにしさん『スピリチュアルズ 「わたし」の秘密』
タイトルの「わたし」とは”スピリチュアル”(霊魂というより無意識という意味で使用)が創造する”人生の物語の”ヒーロー/ヒロインのキャラ(パーソナリティ)のことを示しています。本書は心理学の最新理論「ビッグファイブ」を使って我々のパーソナリティの仕組みを解説する科学書となっています。
著者はこの「ビッグファイブ」理論を拡張した「他者に出会ったとき我々の無意識が注目する8要素(ビッグエイト)」というものを提唱しています。以下がその8項目です。
(1)明るいか、暗いか
(2)精神的に安定しているか、神経質か
(3)みんなといっしょにやっていけるか、自分勝手か
(4)相手に共感できるか、冷淡か
(5)信頼できるか、あてにならないか
(6)面白いか、つまらないか
(7)賢いか、そうでないか
(8)魅力的か、そうでないか
誰でも初対面の相手をこの8要素だけで値踏みしていると著者は言っていますが、果たしてそうなのでしょうか?
最後まで読んで著者のパーソナリティ論を吟味してみようと思います。
読書会の感想
皆さんの話を聞いていて、大野 晋の日本語論、池田晶子の哲学エッセーを読んでみたくなりました。また、「はてしない物語」については昔とても感動したのにどんな話だったかすっかり忘れてしまったので再読してみたいです。
最後にマンガの話題で盛り上がったので、マンガに限定した読書会があってもいいなと思いました。
よしだ『はてしない物語(上)』ミヒャエル・エンデ著/上田真而子・佐藤真理子訳
ファンタージエン国の王女さまを救うには迫り来る虚無に飛び込んで人間の世界に行かなくてはなりません。しかし虚無に飛び込むと、ファンタージエンの住人はそのままの姿ではいられず変わってしまいます。人間の頭の中の妄想に。それは良い妄想ではなく、不安や欲望や絶望だというのです。
どういうことなのでしょうか。おそらくエンデはこの本でも近代への批判を込めているのではないかと思っています。人間の豊かな想像力が、不安や欲望や絶望を妄想する力に変わってしまったということでしょうか。
3月12日:読みたい本を気ままに読む読書会
つやまさん『THE LONELY CENTURY なぜ私たちは「孤独」なのか』ノリーナ・ハーツ
現代はインターネットなどの技術の進歩によって、簡単に人とつながれるようになったにも関わらず、多くの人が孤独を感じている「孤独の世紀」である。21世紀の孤独を考えるときかつてより広い意味で捉える必要があると著者は言っており、親密な人間関係がなかったり大切にされないということ以外に、仕事や社会、政治や経済から取り残されているという疎外感を感じることや、自分自身から切り離されているという感覚も孤独の定義に含めている。その原点は、サッチャー元英首相が「心と魂を変えること」を目的として推進したネオリベラリズム(新自由主義)の台頭にあり、現代人に共同体の繁栄より個人の利益を追及することを善とするマインドセットを植え付けたことにある。価値観の変化はポップソングの歌詞にも現れており、例えば1977年のデヴィッド・ボウイは「ぼくらはヒーローになれる」と歌っていたが、2013年のカニエ・ウェストは「俺は神だ」と歌い大ヒットした。この状況を変えるために、資本主義と公益、思いやり、協力をもう一度結びつけたコミュニティをつくる必要があると著者は言っている。
他の方が紹介されたアウシュヴィッツ収容所の本で、収容所が地域の経済に大きな恩恵をもたらしていたため虐殺を止めることができなかったという話が印象に残りました。そこまで極端に集約された形ではないとしても、現代でも同じような構造はあるような気がします。読書会の後に「孤独」について話すことができたのもよかったです。
よしだ『はてしない物語(上)』ミヒャエル・エンデ著/上田真而子・佐藤真理子訳
読んだ本とは全然関係ない感想ですが、孤独とはどういうことを言うのだろうかというのが気になりました。孤独とはネガティブなイメージで捉えられることが多いと思いますが、ときに孤独は孤立とは違うとか、孤独を大事にせよ、ということも言われます。ポジティブ、とまでは言えないのかもしれませんが、決して悪いことではないという考えです。
孤独について考えるヒントが今日いくつか出たように思います。”みんな”と一緒にいても孤独を感じることがある、自分がしたいことがわからなくなる・自分が何を考えているかわからなくなると孤独を感じる、個人主義的であるアメリカの方が日本よりも人一般に対する信頼指標が高い(孤立感を抱いているわけではない?)、など。おおざっくりで主観たっぷりに考えると、良くない孤独とは自分を感じられないということ、悪くない孤独とは自分を感じられているということ、だったりするのでしょうか。ところで自分とは何なのでしょうか。…こうして沼にはまっていく。考えるって難しい。
3月13日:テーマのある読書会「会うこと」
つやまさん『THE LONELY CENTURY なぜ私たちは「孤独」なのか』ノリーナ・ハーツ
孤立させられたマウスはお互いを攻撃するようになるが、人間も孤独になると共感能力が低下し他者に敵意を感じやすくなる。近年各国で(極右)ポピュリズムへの傾倒が起こり民主主義社会に深刻なダメージを与えているが、その大きな原因のひとつに孤独があると著者は言っている。数十年にわたる新自由主義、脱工業化、コロナ禍などによる不況により、社会や為政者から見捨てられているという孤独感や疎外感を感じる人が増えており、ポピュリズムが主張する排他的で分断的な社会に惹かれやすくなるという。哲学者のハンナ・アレントは、ナチスのユダヤ人虐殺に加担・追随した人々の背後にも孤独という要因があり、自己をイデオロギーに捧げることにより自尊心を取り戻すという心理があると指摘している。2016年の大統領選でドナルド・トランプが勝利したのは、収入や尊厳を奪われたと感じていた白人労働者階級に、自分たちの声を代弁し救済してくれると信じ込ませるのが巧みだったところに勝因があった。また彼らがはく奪され切望していたコミュニティへの所属意識を、熱狂的な政治集会で愛国心を煽ることを通して満たしてやることでも支持を高めていった。このような人々の孤独感につけ入って煽動する手法は、その後ヨーロッパのポピュリスト政党でも一般的になってきているという。これ以上疎外や不信が広がらないよう、政治家はコミュニティの再建に努める必要があるし、人々は多様な人々を受け入れる寛容さを身に付ける努力が必要である。
読書会での会話についてですが、人間は孤独なときに不安や恐怖を煽られると抵抗しにくいので、手口を知っておくことが対策かなと思いました。「貧乏」より「貧困」の方が深刻な感じがするのは、関係性の欠如が含まれているからなのかと納得しました。孤独への対処として、コミュニケーション力を高めるより考え方を変える方が有効だったというのは興味深く、徒然草を読んでみたくなりました。あと、大食い動画が世界中でブームになっているのも孤独と関係があると書かれていました。
よしだ『皮膚は「心」を持っていた!』山口創著
今日は耳以外でも音を聞いている、というところを読みました。割とよく知られた骨伝導では、耳が聞き取れる周波数(可聴域)外の音も聞き取れるそうです。そしてそうした可聴域外の音が心を動かす要素だったりもするようです。つまり、イヤホンで耳からだけ音を聞いていては感動が半減している可能性があるということです。
耳だけで音を聞いているわけではないというこの例の他にも、目だけで色を感じているわけではない、頭だけで記憶しているわけではない、という例も示されています。人間は全身をフルに使っているのだと思いました。
過去の読書感想はこちらに載せています。
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(吉田)