「アフォーダンス」。なんとなくインパクトがある言葉だったので、タイトルに使ってみました。
アフォーダンスとは、アメリカのギブソンという心理学者が提唱した概念なのですが、もしかしたらみなさんが抱いている考え方と少し違うものかもしれません。少なくとも私にとっては、逆とまでいくかは分かりませんが、新鮮な概念でした。
アフォーダンスとは、「環境が動物に与え、提供している意味や価値」のことを言います。これが意味するところは、人の思考や行動の起点は自分の中だけにあるのではなく、半分くらいは周囲環境にある、ということだと認識しています。例えば、膝下くらいの高さで表面が平らな岩があれば座りたくなりますし、細長い枝があればおもいきり振ってしならせたくなります。岩や木々がある公園に行けばかくれんぼや鬼ごっこが遊びとして選択されますし、反対にだだっ広くて何もない公園に行けばサッカーやドッジボールが選択されます。逆のことはなかなか起こりません。つまり、その環境にあるものや雰囲気のようなもので、自ずと私たちの行動や思考が決まってくるということです。
この概念は、ポジティブなことを教えてくれていると感じました。大雑把にいうと、「あんまり自分で考えなくていい」ということです。周りにいろいろなヒントがあるんだよ、ということを言っているように感じたのです。
例えば、電車の改札でスイカをかざして通過するシステムがあります。人が通過する時、滞っているのを見たことはあるでしょうか。あるいは、記憶にあるか分かりませんが、初めて通過する時迷いはあったでしょうか。あれだけの多種多様で大量の人たちが、毎日滞るこなく決済を終えて通過するとは、よくよく考えるとものすごいことです。光る盤面は注目をそこに集め、スイカのマークは「スイカのことだよ」と想起させ、あの絶妙な盤面の斜め具合は止まることなくかざして通過するということを導きます。少しでも角度が違えば、立ち止まってしまったり、スイカマークが見えなかったりするのだと思います。
スイカの改札システムを開発したデザイナーの方は、それこそ大量の実験や考察を繰り返したのだと言います。人は光るものに目がいく、この角度だと立ち止まってしまう、もう少し角度をこうしよう、と何度も何度も試行錯誤しました。最終的にたどりついたあの形は、人にとってベストに近いものだったのだと思います。
スイカの例は、人工的に人の流れをつくり実験・観察したものですが、私たちが「これだ!」と思う何かは既に周りに存在しているのかもしれません。それを観察して、現代の人間社会に合う形にしていくと、イノベーションと呼ばれるものになるのかもしれません。アフォーダンスを紹介した本『アフォーダンス入門』(佐々木正人著、講談社学術文庫)では、ダーウィンの観察による偉大な発見の話が紹介されていました。スイカもダーウィンも、もちろん自分でも考えていたのでしょうが、じっと観察していた時間もすごく長かったんだろうなと思いました。そんなことを知り、「自分で考える」ということに対する見方がまた少し変わりました。
(吉田)
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