2020.06.13

〈あとがき〉『社会関係という土作り 〜人生を支えるもう一つの資本〜』

 さきほど、『社会関係という土作り 〜人生を支えるもう一つの資本〜』というブックレットをリベルに置いておきました。ここでは、そのブックレットの「あとがき」を書くことによって、内容の紹介に代えさせていただきます。

 中心に据えたのは「社会関係資本」という概念です。これは簡単に言ってしまえば、人のつながりや社会のルールのことを指します。おそらく私たちが、特に小さい頃に「大事にしなさい」と言われてきた、ごく当たり前のものです。
 では、なぜ当たり前のものをテーマとして扱おうと思ったのか。
 それは社会関係資本に精通する先生のお話を伺ったり、本を読んだりしているうちに、何だか「怖さ」のような感情を覚えたからです。当たり前のものが知らず知らずのうちに失われ、それに伴い人生の可能性も閉ざされていくように感じたのです。
 逆に言うと、社会関係資本が豊かな社会や集団に身を置くことは、可能性の開けた人生につながるイメージを持てました。ブックレットの中で紹介している個人間の臓器移植という助け合いや、弱いつながりによってもたらされる多様な問題の解決などがその例です。長く不確実な世の中を生き抜いていくためには、社会関係資本が重要であることを直感しています。

 社会関係資本とは、学問の世界で使われる言葉ですが、それをあえてそのまま使いました。お金や不動産などの目に見えやすい経済資本に比べて、目に見えにくい人のつながりや社会のルールは、何かしらの言葉で定義しなければ意識することが出来ないと考えたからです。
 また、「資本」という言葉もピッタリであると感じました。なぜなら、人のつながりや社会のルールは、私たちの生きる活動を助ける元手になっていると実感できるようになっていたからです。

 経済資本は意識的に溜めるイメージがありますが、社会関係資本にはそのようなイメージはありません。本来であれば人のつながりや社会のルールは、あまり意識せず、自然と築かれていくこと・残存していくことが望ましいのかもしれません。意識することでギクシャクしてしまうと考えられるからです。
 ただ、変化の時、人との接し方が変わったりルールが見直されたりする局面では、意識をする必要があると考えています。意識をしなければ分かりやすい合理性の前に、失われていくと考えられるからです。

 しかしながら、もう一方で、みえみえに「社会関係資本!」と掲げてもうまく培えない類の資本ではないかと思っています。人のつながりや社会のルールは、ごく自然に存在するものだと思うからです。
 だから私個人としては、意識はするんだけどあまり意識はしない、心の奥底に置いていく程度の携え方で生きていこうと思っています。社会関係資本を培うことを目的にはしないのですが、常にどこかにお守りのようにぶらさげているようなスタイルです。

 このブックレットに書かれていることが、生きる上での一つの視点や、何らかの思考の一部になればうれしく思います。

 今回は、東北大学大学院文学研究科リサーチフェロー・日本大学大学院法学研究科非常勤講師の稲葉陽二先生にご協力いただきました。また、ブックレットの要所では、これまでお話を伺う時間をくださった先生方の知識や考え方を埋め込まさせていただいています。ありがとうございます。

『社会関係という土作り 〜人生を支えるもう一つの資本〜』

(吉田)

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