2020.07.06

限界を感じた時のもう片方。

 強烈な考え方は人を動かし、その人にとってのセオリーとして確立されていきます。
 たとえば、何事も目標をめて逆算して計画を立てて実行していくというのが、うまく進むためのセオリーとなることもあるでしょう。しかし、このセオリーは、目標を定められない状況では成立しません。無理矢理に目標や目的を定めることにつながり、進んでいてもイマイチ感を感じることも多々あります。

 このような一つの考え方で進むことによって行き詰まることは、個人の生き方に限る話ではないようです。

 薬にも、西洋医薬が一時期地位を築いていったけれども限界にぶつかり、東洋医薬との融合を図ってきているという歴史があるようです。西洋の医薬品は、症状の原因を特定し、その原因を解決するための物質を薬として処方します。
 たとえば、花粉症の薬のCMで「レセプターブロック」というキャッチフレーズを聞いたことはないでしょうか。花粉症のアレルギー反応は、ある物質がレセプター(受容体)という鍵穴にはまることで起こりますが、その鍵穴にあらかじめ別の物質を詰めてしまうことで、反応を起こらなくしてしまうのです。
 このように西洋医薬は、症状のメカニズムを解明し、ピンポイントで解決を図るという方法をとります。これは要素還元的であると言い換えることができます。

 それに対して、東洋医薬は、症状に応じて漢方薬を処方します。疲労感・倦怠感や便秘などの症状が出た時に、患者さんの様子や症状を伺い、漢方の辞書のようなものと照会しながら薬を処方するのです。
 このような処方の仕方は、症状のメカニズムや原因を考慮していないということで、西洋医薬側からの批判があったと言います。ブラックボックスであり信用に劣るという批判です。

 しかし、要素還元していく西洋医薬にも限界が見られ始めます。人の体は、決して個別の要素ごとに動いているわけではなく、要素の集合全体としてうまく働くようにできているからです。
 一箇所にフォーカスを絞って改善しても、その副作用で別の箇所が悪くなることなどもあるのです。そのような限界が見え始めた時に、東洋の全体主義的な医薬に対する考え方に目が向けられ始めました。
 たとえば、西洋医薬と東洋医薬を併用することで、副作用の症状を抑えることができると言います。2011年に行われた日本漢方生薬製剤協会による調査では、約90%の医師が漢方を使用しているという結果になりました。

 一つの強力な理論や考え方が登場したとき、それを真理であると錯覚に陥るくらいまで信じることがあります。たしかに何かに邁進するためには信じることは大切だと思います。
 ただ、仮にその方法でうまくいかなかった時、対立するもう片方に目を向けてみることも重要そうです。向き合う課題や環境の変化などによって、適切な考え方や方法は変わっていくと考えられるからです。


〈参考〉
1.斉藤和季著『植物はなぜ薬を作るのか』(文藝春秋、2017)
2.画像元のフリー写真提供者:https://www.photo-ac.com/profile/870820

(吉田)

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