「時間をデザインする」とは私にとって盲点でした。
普段これほどまでに時間を意識して生活しているにも関わらず、流れる時間を能動的にデザインしようと考えたことはなかったように思います。時計の時間が絶対であり、例えば東京であれば速い電車間隔や情報の流れに沿って生きるのが当たり前だと思っていたからです。
しかし、生きものの目線で時間というものを捉えた時に、時計が示す一様な時間が全てではなく、ゾウにはゾウの、ネズミにはネズミの時間軸があると認識できるようになりました。
そして人間には、“生きものとしての人間”の時間軸があるのです。
生物ごとの時間軸があると考えた時に、時間の主体は、社会にではなく自分に置いてみる必要もあるのではないかと思うに至りました。なぜなら、生きものとしての自分が快適だと感じられる時間で生きることは、充実度や幸福度の向上につながるのではないかと考えられるからです。
反対に、社会の時間に合わせすぎると、生きものとして適した時間の速さや長さに合わずに、ストレスや空虚感などの弊害がもたらされる可能性があります。
時間を全て自分に合わせてコントロールする方がいいと考えているわけではありません。
仕事でもプライベートでも、周りの人と協調的に活動するためには、万国共通の時計の時間は必要ですし、それに合わせて動く必要もあります。
ただ、生活の中の一部だけでも自分の時間で生きたり、接する相手に合わせて時間の速さを変えてみてもいいのではないかということです。また、社会の時間も、QRコード決済やECサイトによる買い物など、速さという点での利便性は高くなっていますが、そこにも時間の多様性を持たせた方がいいのではないかとも思われます。
モノとは違って目には見えにくい「時間」は、デザインをする対象として盲点になっていないでしょうか。生活のオンライン化や機械化・AI化が大きく進んでいる今だからこそ、時間のあり方を捉え直しデザインしていこうと思えることは、とても意味のあることだと考えています。
今回は、東京工業大学名誉教授の本川達雄先生にご協力をいただき、『生きもの目線の時間軸 〜社会や自分の時間デザインを考える〜』というブックレットを作成しました。以下のような目次で展開しており、生きものとしての人間という目線から、現代の社会の時間を捉え直すような内容となっています。数式や表、グラフが出てきますが、一つ一つをじっくり吟味する必要はなく、本文中に記載されている特徴や性質から、生物目線での時間というのをイメージして欲しいという意図で取り上げました。
自分はどういう時間の上で生きたいのか、社会の一様で速い時間の流れは今のままでいいのか、私はブックレットを作りながらそんなことを考えていました。
〈目次〉
第一章 生きもの目線の時間
・サイズと時間の関係性
・生物ごとの時間デザイン
・生きものの時間軸という見方の大切さ
第二章 エネルギーを使って生み出される生物的時間
・サイズとエネルギー消費の関係性
・エネルギーを使うほど生物的時間は速く進む
・年齢による時間の進み方の違いから考える時間デザイン
第三章 生物的時間と社会的時間のギャップ
・産業革命以後、急速に生み出された社会的時間
・機械化とエネルギー投下による人類の進化
・機械寄りの社会的時間と、生物的時間とのギャップ
第四章 私たちはどのような時間軸で生きるのか
ブックレットへのリンク:『生きもの目線の時間軸 〜社会や自分の時間デザインを考える〜』
(吉田)