2020.08.12

先天的に備わる社会維持の仕組み。

 社会を維持する仕組みとして思い浮かぶのは、法律や制度などのルールや、政府のような中央的な権力やそこから権限移譲された機関などの組織体系ではないでしょうか。
 17世紀の政治哲学者・ホッブズは、ヨーロッパ中世の戦争の繰り返しの歴史をうけて、人間集団の基本は動物的な「闘争状態」にあるため、平和な社会を実現するためには強力な中央集権の仕組みが必要であると考えました。確かに身の回りのルールは何もないところから生まれるのではなく、利己的な振る舞いが散見されるようになることで制定されるものであると考えられます。

 しかしながら、人間の社会は、中央集権的な仕組みだけで維持されているわけではないようです。

 人間と同じ哺乳類であるチスイコウモリは、代謝が早いため、2日続けて血を吸えないと餓死してしまいます。そこで生存のために、仲間に血を分け与えるという利他的な行動をとります。これは、いざとなったら自分も分け与えてもらうことを期待した行動であると考えられるため、“互恵的”利他行為と見なすことができます。

 注目すべきは、チスイコウモリが血を分け与える相手です。
 自分の遺伝子を残すことを第一義と考えるならば、遺伝子がより類似している血縁関係のある相手に血を分け与えるはずです。しかし、動物行動学者のカーターらの実験によると、分け与える相手は以下のような順位で決められているようなのです。

1.相手に以前に血を分け与えた回数
2.相手の性別
3.相手に以前に毛づくろいした程度
4.相手との血縁度

 チスイコウモリは、他者の行動を観察し、協調的行動をとる相手に血を分け与えるという行為をとるようなのです。協調的行動を後天的に促す教育などのシステムを持たないチスイコウモリの行為からは、義理人情を重んじるような性質が先天的に備わっているということが分かります。

 もちろん私たち人間も同じように先天的に互恵的利他行為をする性質が備わっていると考えられます。チスイコウモリのような義理人情を重んじる感情や、裏切りや不公平を嫌う感情などは、先天的に備わった性質であると考えることができます。これらの感情によって、協力活動が促され、長期的な生存を助けてきたのです。

 感情は合理的な判断や行動を阻害するものであると見なされることがあります。しかし、感情によって集団の協調が強められている側面もあるようです。ルールや組織体系などを整えることも重要ですが、感情を大事にし、感情を頼ることも社会維持のためには必要であると言えるのかもしれません。


〈参考〉
1.亀田達也著『モラルの起源 ー実験社会科学からの問い』(岩波新書,2017)
2.画像元のフリー写真提供者:https://www.photo-ac.com/profile/1379402

(吉田)

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