2021.03.17

遺伝子工学と自己否定について。読書会から考えたこと。

 先日の読書会では、遺伝子工学についても話が及びました。ただし、専門知識についての話ではなく、遺伝子工学が発達した世界におけるSF小説の話でした。少し散らかるかもしれませんが、考えたことを記してみたいと思います。

 SF小説『わたしたちが光の速さですすめないなら』を読んでいた方がいました。この小説は短編集のようで、その中の一つに遺伝子工学が発達した世界が描かれていたようでした。遺伝子工学の発達によって、望むように個人の遺伝子を編集することができるようになった世界のことです。遺伝子は、身体的な特徴や、運動能力やIQなどの能力、好き嫌いや社交性などの性格にも影響を与えるとされています。どこまでが編集できると設定されているのかはわかりませんが、いずれにしても、遺伝子を編集し、望むような姿かたちや能力・性格の人を産める世界なのだと想像されます。

 そのような世界について、読んでいた方の感想を通して、いくつかの問題がイメージされました。
 一つには、例えば、親が自分の生まれてくる子どもの遺伝子編集を依頼したとして、それは自己を否定することになるのではないかということです。実際に小説の中でも、そのような様が描かれていたようでした。なにも手を加えず自然に子どもが生まれる場合には、母と父の遺伝子が偶発的に受け継がれていきます。しかし遺伝子編集をするということは、「自分のこの遺伝子は残さずに、このようなものに変える」という検討の過程が生じることになるでしょう。それは、自分自身の特徴を否定することにもつながり、そして、この世に残さないという選択をしたことをも意味します。未だ経験したことがないこの選択は、人のこころにどのようなあとを残すのでしょうか。

 もう一つの問題は、分断が起こることでした。小説の中では、遺伝子編集ができるのは富める者に限られるため、編集できる者とできない者が分かれることになります。富める者が施す遺伝子編集は、世間一般的に優れているとされている方向性なのでしょう。そして、そのような編集を施した人たちと、そうでない人たちは、住む場所を別にしていきます。
 しかし、ある意味では完璧とされるのかもしれない人たちだけが集まって住む場所と、そうではない場所で、どちらが住みたい場所なのかと問われると、また難しい問題です。小説の中では、それぞれの場所のことが描かれており、どちらが住み良い場所なのかを考えさせられるようなストーリーになっているようでした。このような、ある一面的なステータスで居住区が区切られていくということは、現代でも起きていると思われます。

 ここで問題となるのは、格差や分断のことだけではなく、そもそも完璧な人間などつくれるのか、という問題なのだと思います。読書会の感想では、そのような話も共有されました。
 世間一般的な幸せとされる基準を満たしていても、当人が幸せを感じていないことも決して少なくないと思います。幸せや生きがいというのは、とても主観的で個人的なものであると思われます。だとすれば、客観的基準を適用して、その人にとっていいであろう姿をデザインすることは困難なことでしょう。また人は、周囲との関係性において楽しさや充実感を感じたり、協力して何かを成したりするはずです。ということは、一個体をどうこうするだけで、幸福などというものを得られるわけではないように思われます。
 とはいえ、そのような他者との関係性づくりなども含めて優れた人格をデザインすればいいのではないか、という話になるのかもしれません。仮にそこまで及ぶのであれば、「例えば、神様がなんでも願いを叶えてあげるとあなたに言ってきたときに、本当に得たい幸せや成功をお願いしたいと思うのか」という問いが浮かびます。個人的にはそのようなものは、自分の力でこつこつ得ていきたいかも、なんて思っています。

 これから、よりなんでも得られるようになっていく世の中においては、得ること・もつことだけではなく、今あるものを自分なりにどう解釈して付き合っていくかということも、大事になっていくのではないかと思いました。そうしないと、どんどん得られるものに、翻弄されてしまうような気がしました。


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(吉田)

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