2021年3月から2021年4月末頃まで、およそ2ヶ月の間、「人の欲」というテーマを設けて読書会を開くことにしています。一つのテーマについてゆったりと、それでいていろいろな参加者の読書にも触れることで、多様に考えられる時間になればと思っています。
ここでは、参加者の方々にいただいた感想を掲載していきたいと思います。「気が向いたら」という任意でいただいた感想です。引き続き更新していきます。
〈リベルの読書会について〉
読書会の情報については、FacebookページやPeatixをご覧ください。申込みをせずに直接訪れていただいても結構です。ただ、たまに休むこともありますので、日程だけはご確認いただければと思います。
・Facebookページ(イベントページ欄)
・Peatix
読書会の形式や最近の様子については、こちらに少し詳しく書いています。
2021年4月18日
つやまさん『無意識の構造』河合隼雄
物理のエネルギーと同じように、心が活動するもとになる心的エネルギーというものがあり、意識(自我)と無意識の間を循環している。無意識にコンプレックスがあると、エネルギーがそちらに捉えられてしまい自我の活動に支障が出る。これを退行といい病的な状態なものもあるが、創造的な退行というものもある。発明や芸術を創作する行為とは、相反する2つの要素を統合してより高次のものを生み出すことであるが、その過程で自我はどちらか一方に傾くことができない矛盾のために停止状態に陥り退行を起こす。このとき外見的にはぼんやりしているだけのように見えるが、無意識の中では仕事が行われていて、やがて統合されたものが意識に上ってきて、発明や作品になる。
相反するものを統合するのに無意識が使われているというのが興味深かったです。音楽や絵画などで、なぜかよくわからないけど心を打たれるという体験をすることがあって不思議に思っていましたが、あれは無意識同士での対話のようなことが起きているのだな、と腑に落ちました。
けいこさん『「利他」とは何か』
東工大の「未来の人類研究センター」における「利他プロジェクト」のメンバー5名が、それぞれ専門の立場から利他について考えるところを述べた論考集。美学、哲学、政治学など切り口は様々だが、己の感情や意志とは関係なく、人知を超えたところから自然に生まれるのが本来の「利他」だというあたりが共通しているようである。わたしたちが通常、利他的な行動をとろうとすれば、そこにはどうしても相手の反応を期待したり、見返りを求めたりする気持ちになりがちなものである。そうではなく、展開や結果は相手に任せて自分はあくまでも受動的な姿勢を崩さず、「うつわ」になることが大切ということだ。中島岳志氏の言葉によれば「オートマティカル」に発生するものが利他の本質だと述べていて、この考え方のベースには性善説があるのではないかと思った。
Takashiさん『人生がときめく片づけの魔法』(近藤麻理恵著)
最強の自己啓発本と言うべきか、あるいはすべての自己啓発本は本書を読んだ後に読めと言うべきか。
著者は片づけで物を残すかどうかは触った時にときめくかどうかで決めなさいと言う。大事なことはそれだけである。しかしこれは恐るべき魔法だ。
物の有用性とその背後にある人間関係が自己自身にどう関係するかを再認識し、自己を再定義せよ。頭だけで考えるな。五感を使え。再定義された自己はすべて過去である。自分を知れ。話はそれからだ。そして明日をときめく心で過ごしなさい。
本書にこんな威圧的で概念的な言葉は一言も出てこないが、そんな感じで読むことができた。凄いなあ。
2021年4月10日
けいこさん『年収90万円で東京ハッピーライフ』
年収90万円で暮らすというのは、よほど何か工夫があるのかと思ったけれども、そういうわけではなく、服は季節ごとに数枚ずつ、基本的に粗食、趣味は散歩と読書という感じの生活で、作者は充分に満足しているのだった。
自分がどのくらいお金を必要としているかを逆算して仕事をしていて、結果的に週2日程度のアルバイトで賄えるのだそう。
「自分が楽だからそういう生活をしているだけで、それぞれが自分に合うライフスタイルを見つければいい」ということを再三書かれていて、昨年からの事態を踏まえると、経済的な問題に留まらず、ライフスタイルや価値観の見直しは誰にとっても必要だと思った。この本は2016年発行だが、作者は今もコロナ騒動などものともしない普段通りの生活をされているのだろうと想像している。
2021年4月4日
Takashiさん『自由からの逃走』(フロム、東京創元社)
フロムは社会の構造と個人の幸福が一致することは稀だと言う(P156)。ざっくりと言えばその差を埋めるために欲望がある。
純粋な生理的欲求を除くと欲望は社会と個人の関係によって発生するものなので、個人に固有なものではない。個人の欲望なんて社会が変化すればあっけなく変わるのだろう。
何を求めて生きるのか。昨日と今日の答えが違うなら、いつも問い続けねばならない。
じゃむぱんさん『絵を見る技術』
ロジカルで絵を見るなんて嫌だな、と思っていました。いろいろな情報にまどわされて、ただそのままに目の前の物事をみつめることができなくなるのではないかと思ったからです。
この本を読んで、センスにロジックがつながれば、絵を見る楽しさが広がるかも知れないと思いました。
2021年3月27日
つやまさん『風の帰る場所 ナウシカから千尋までの軌跡』
印象的だったのは、漫画版のナウシカの連載時の次のようなエピソード。その当時、最初に想定していたより話がずっと長引いていて、本人も予期せぬ方向に話が展開した末に道筋を見失ってしまった状態であった。そんな中で、カレンダー用の絵を描くことになったので、物語のことは特に意識せずに軽い気持ちで様々なシーンを描いた。その後、何とか物語を完結させて改めてそのカレンダーを見返したところ、そこに描いた絵の一枚一枚が物語の結末までの重要なシーンになっていたことに気付いた、というもの。
描かれるのがどんな物語なのか、意識では認識できていなくても、無意識はすべてを承知しているのだという、芸術家の創作活動の不思議さを感じました。そして無意識レベルから物語を汲み上げてくるのはものすごく精神を消耗しそうな作業だな、と思いました。実際、「描きたい」というよりは「描かなければならない」というような本人の意思を越えた力を感じながら描いていたそうです。だからこそ、多くの人の心に深く長くとどまる作品になりえるのかなと感じました。
2021年3月13日
つやまさん『大人の友情』河合隼雄
【本の内容】
『男女間に友情は成立するか』の章
・夏目漱石や武者小路実篤が小説に書いているように、固い友情で結ばれていると思える同性の友人同士でも、間に異性との恋愛関係が入ってくることが原因となり、あっさりと関係が破綻してしまうことはよく起こる。これは恋愛感情というものが動物的な本能による種族保存のための絶対命令であり、途方もなく強い力を持つためである。
・男女間の友情は不可能なのか。最初から慎重で抑制力のある態度で接することで男女間の友情を成立させることもできるが、少しのズレも許されないほどの「名人芸」が求められる。別の例として、結婚してから長く良好な関係を続けている夫婦や、関係を解消した後に友人として付き合っている男女の間では、友情が関係性を支えるものとして働いている。現代的な若い男女の淡白な付き合いでは、一見友情が成立しているように見えるが、そもそも感情の交流があまりなかったりすることも多い。
・恋愛関係にならないように注意しても(あるいは逆に発展させようとしても)、当人たちのコントロールが及ばない「不思議なこと」が起こって意図した結果にならないことも多々ある。これは、異性間の友情には相当な心の深みが関係しているためであると思われ、そういう意味での「深い関係」というものも存在する。
【感想】
河合先生に男女の友情は難しいと説かれると、これまで自分で感じていた以上に納得してしまうものがありました。人間の中にある理性ではコントロールしきれない本能や無意識の力を最も身近に感じられるのが恋愛なのだと思います。それは厄介で恐ろしいのと同時に素晴らしいことなのかもしれないと思いました。
うさじさん『生きるということ』
今日はありがとうございました。
<まなんだことや思ったこと>
・人はなぜ所有するのか?の問いがでましたが、確かになぜでしょうか?
例えば「お金」は持っていないと不安になることがあります。
私にとって、「お金」とは、「健康」「最低限の生活」「人との付き合い」などなど
「生きるために必要な何か」と交換するために必要なものだと感じています。
安心感を得たくて、所有しようとしているのではないかと思いました。
もう少し本と向き合って考えていきたいです。
・冷蔵庫の中身は、「もつ」より「ある」ことに着目した方が、より良い環境に保てる。
・無理やりポジティブシンキングになろうとしてネガティブを抑圧すると、感情が分からなくなってしまう。
・他者の評価ではなく、その人にとっての人生の意味(その人自身の評価)をみつけることで、生き延びることができる。
・承認欲求が高まりすぎると、承認を貰えないことへの不安につながってしまう。
・利子を一定に保たないと、モラルが問われる。
・「男女間の友情は成立するのか?」時代にもよるのではないか。河合隼雄さんは、成立しないだろう派。
現代なら、南海キャンディーズの山ちゃんと静ちゃんなんかは友情が成立しているように思える。
2021年3月7日
つやまさん『大人の友情』河合隼雄
【本の内容(前半の一部)】
・「友情」は友達同士に限らず、先輩後輩や夫婦などの間にもはたらいている感情であり、この本ではそのような多種多様な関係性にみられる友情を扱っている。
・日本語には「虫が好かない」「馬が合う」いう表現があるが、これらは自分自身ではないものが主語にされており、友情が現実的な利害や当人のコントロールを越えてはたらく力であることを物語っている。ここで、虫や馬を無意識と捉えてみると、友情を考える上で面白いのではないか。馬が合うことは大事だが、時には自分や相手がどんな馬に乗っているのかを検証しあうことが、長続きする友情には必要である。
・友人関係が深まるにつれて相手との精神的な一心同体を求めるようになるが、同時に友情が破綻する危険性も高まっていく。これは関係性が深まることが、相手の影の部分を知ることを意味することが関係している。この危機を乗り越えるために必要となるのが「やさしさ」であり、それは究極的には自分も相手もやがて死ぬという事実を見つめながら付き合うということである。
【感想】
心理学の専門家である河合先生の考え方に触れて、身近な人間関係もとても奥が深く学ぶところが多いと捉え直すことができました。よい友情には、相手に親身に寄り添おうという姿勢が大切なのはももちろんですが、同時に少し離れたところから眺めるような視点も必要だと感じました。承認欲求に振り回されすぎずに良い人間関係を築いていきたいと改めて思いました。
うさじさん『生きるということ』
今日もありがとうございました。
欲とはなんだろう?という問いに対して
・内的欲求に耳をかたむけること
・自分という越えた範囲で生じるエネルギー
・関心をもってかかわること
・創造すること
などなど様々な視点から答えがでたことが面白かったです。
まなぶことに対しては、
何を学んだのか、どれだけ学んだのかよりも、
興味があることからはじめて、
どう感じたのか?
その先に、考え方や見方、行動がどう変わっていくのか?
まなぶことで生じる変化を大切にしていきたいと思いました。
Takashiさん『運命が見える女たち』
占い師の取材ドキュメンタリーである。本物と呼ばれる占い師は、会ったこともない著者のことと、その人間関係をどんどん当てていく。しかし、占いによって著者の苦しみは次第に大きくなる。なぜか。
占い師は未来と人の心を当てる。悪いことを回避し良いことは利用したい、そんな人の欲望を刺激する。人は人から否定されたくないし良く思われたいのである。
他人が自分を映す鏡だとすれば、占いによる未来の変更は、自分を変えずに鏡だけを歪める作業とも言えるだろう。苦しくなるのも無理はない。
なんだか否定的な感じになってしまったけれど、すべてはさじ加減なのだろう。自分も朝のTVの占いは見ちゃうし、運勢MAXだとテンションも上がるので。
はっちゃんさん『孤独と不安のレッスン』
歳を取って経験値を積んで、人は悩むという行為をしなくなるものなのか、将来は仏のような心境になっていくものかとまたそうなりたいと思っていましたが、「歳を取る程に不安になっていくものです」という作者の答えにそれはそうだなと思ったり、いつの年代になっても悩みのない人生というのは無くならないものなんだあと思いました。
皆さんが読んだ本の「欲」の話は大変興味深く、生きる=欲 ではないかと思いました。
今の時代はコロナ渦で皆が少しづつ自分の欲(移動の自由、集会の自由=飲み会!)などを我慢している状態で、そこにSDGsという目標が加わり、欲望は我慢するものという意識が自分の中に出来てしまった事に気づきました。
生きるという行為にはエンジン(欲望)というものがついてまわるものような気がします。今は欲望を抑えて生活しなければなりませんが、コロナが解決して再び移動の自由が出来たらどこに行きたいと考えるのも、生きていく上での目標、指標となりそうです。
Yuさん『Think clearly』
他の参加者の本の中にあった、「もつ(学んだことを固持する)」と「ある(関心を持つことで反応し、学び変化する)」との違いはとても興味深かったです。
というのも、「もちたい」という欲望が、自分の中に確かにあるなと思ったからです。例えば、本当はとても複雑なはずの社会問題/時事問題/ニュース等について、自分なりに少し調べて直ぐに答えが分かった気になり、その後どんな情報に触れても「その時の自分の答え」を固持してしまう/「自分の答え」以外の視点からの情報をシャットダウンしてしまう、ような経験は身に覚えがあります。
複雑な世の中の仕組みに対して、手軽に分かった気になりたい/回答を出した気になりたい、という「もちたい」欲望から逃れることは難しいなと感じました。
てらもっちさん『われわれはなぜ嘘つきで自信過剰でお人好しなのか。』
第8章 部族と試練――進化心理学と世界の平和
部族の境目、文化や言語、宗教の境目、非交流が感染病のストッパーになっており、赤道上の高温多湿地帯においては、言語や宗教が多岐にわたるという論拠。「銃・病原菌・鉄」以降、病原菌を理由にした進化や文化の説明をする本が増えている気がするが、今回のコロナの影響を見ると、それも頷ける。だが、本当にそれだけなのか。という思いもある。
第9章 進化はなぜ人間に幸せをもたらしたのか
「幸福とは、遺伝子に最大の利益を与える行動をとるよう、人間を動機付けするために進化が使うツールだ。もし人間が永遠の幸せを手にすることができたら、進化は最も便利なツールの一つを失うことになる。」
幸福というもの、欲と言うもの、これも生命がもつOSの上にプログラミングされた、構築されたものとしたら。。。欲の奥に潜むもの。蠢くもの。
進化を擬人化した表現に、OSをプログラミングした何者かの存在を感じる。もちろん、その存在を信じる宗教や全てを無に帰する死の世界に行くのではなく、その存在を疑い続け、世界を見ながら問い続けるか弱く生きる人間の立場でいたい。
ただ、向こう側を見たい。その欲は残る。