参加者に任意でいただいた読書感想を掲載します。10月19日(火)は3名、20日(水)は5名、23日(土)は7名、24日(日)は3名の参加でした(主催者含む)。
土曜日の「質問「 」について考える時間。」の質問は、
外出するときバッグは右手に持ちますか 左手に持ちますか
昨日歩いた道と同じコースを歩けますか
の2つでした(田中未知著『質問』(文藝春秋)より)。1つ目が、「なんとなく、利き手じゃない方」という話におさまったので、2つ目に移りました。
10月19日:読みたい本を気ままに読む読書会
早川さん『もしも、シンデレラの行動がすべて計算ずくだったら?考える脳の鍛え方』
「さんまのカラクリTV」などのテレビ番組の企画をしていた著者。0から新しいものを生み出すのは難しい。既にある1を1’に変えていく。例として、シンデレラの話を登場人物そのままで新しい話にするなら?とか「チョイ不良〇〇」を出しまくるとか、何かと何かを掛け合わせて新しいものにするなどの方法がある。企画をするには自分よがりではなく、相手のことを考えること、自分の中で決定のためのルールを持つことが大事ということもわかった。
企画をする仕事に携わっているわけでは無いが、物事に対する視点の持ち方とか、楽しく仕事をする極意などを知ることができた1冊だった。
よしだ『ソフィーの世界』
児童文学、今日から読みはじめ。14歳の少女のもとに、哲学的な質問が手紙で届くところから始まる。
最初の質問は「あなたはだれ?」
この質問に、自分の名前や形容する何かで答えるのか、深く考え込んでいくのかがひとつの分かれ目なのだと思う。大人になると、いろいろなことに答えをもっているつもりになってしまう。
14歳という大人になっていく時期にこの手紙が届くことに物語の意味があるのだろう。しかし自分の答えを崩していくことは何歳になってもできるはずだ。この本を読みながら哲学的に考えることの意味を一緒に考えてみたいと思った。
10月20日:読みたい本を気ままに読む読書会
つやまさん『承認をめぐる病』斎藤環
読んだのは9章のはじめです。さまざまな精神療法の根底にあるのは、人間の「内省」「コミュニケーション」「行動」には3すくみの関係があり、そのバランスが大切であるということ。過剰になっているものを抑えて不足しているものを補うように促していくことで、精神的な問題はおのずと解決していくことが多い。引きこもりなどの問題に対しても、直接的に外に出ることを目的にするよりも、環境を整えたりするような外堀を埋めていく方がうまくいくことが多い。対話においても「余白」が多い「ゆるい対話」が理想で、治療者がすべてを理詰めで説明してしまうのではなく、相手がみずから気づいていく感覚をもてることが大事になるそう。
感想タイムでは、最近の若者は承認欲求が増えたのかという話から、働くモチベーションの変化や個人差、承認欲求とタピオカについてなど話題が広がって楽しかったです。
他の方の本も、人は何事にも因果関係を求めてしまう生き物であること、記憶の積み重ねが自意識になること、文学作品を深くゆっくり味わうことについて、などなどいろいろと考えさせられ興味深かったです。
yuさん『黄色い雨』
スペインの作家。1970年完全に廃村となったアイリエーニエ村に残された二人の夫婦と雌犬。雪深い自然の美しさと人間の孤独。ひとりぼっちでこの世にだれもいないってどんな感じなのかなあと思いながら読みました。わたしは記憶にすぎないのでは。
他の方で平野啓一郎さんの「ゆっくり読書・・」高瀬舟の読みの深さを聞いて、「深く読む」とは。また「承認欲求・・」の本で「余白のある会話」とは。
また「ソフィー」で「わたしは誰」だろう。なんとなく人間存在について共通の本だった気になりました。
原有輝さん(今日は、この時間に読書はできませんでした。)
忙しいと忘れがちだが、ゆっくり丁寧にするのは時々大事で、時々思い出したいものだ。雑に扱うと誤解も多い。誤解が争いに発展するかもしれない。
10月23日:読みたい本を気ままに読む読書会
原有輝さん『俳句の時代』
遠野と熊野は繋がっているらしく、普段は日常に忙殺されているが、時々は聖地の清浄さに触れてみたいものです。それで自分を取り戻すことは、多分あるだろうから。
小澤さん『諦めの価値』
【概要】
「あきらめ」ることに対する森博嗣による見解を書いた本。
諦めるなといった風潮が一般的ですが、諦めることの何が悪いの?という著者のスタンス。
・重要なことは「諦める」対象は何かを考えること。
・目的
・目的へ向かう方法
後者であるならば、成功とはむしろ諦めることで近づいていく。
前者の目的だって、整理してみれば違うやり方で実現できることもある。
「美人になりたい」が目的だったら、美人になることで何を得たいのか整理すれば別の方法で実現できるかもしれない。そもそも目的を達成する必要はない可能性があることに気づくこともある。
・「諦める」ことによって、人は考え始めるので、事態が改善する可能性がある。
大失敗は大体の場合、諦めないことが原因で、もう少し早く諦めていれば失敗で済んだものが、諦めなかったために「大」が付加される。
Takashiさん『カフカ短編集』 カフカ著 岩波文庫
二十編の寓話が入っている短編集だ。
小説は心の奥に直接届く。何の話か分からなくても、理屈の壁をすり抜けて心の奥に届く。哲学はそれを気付かせてくれるガイド役だ。
私が読むところ、この短編集は何を言いたいのかがさっぱり分からない話が多い。でも、なんとなく心に残ってしまう話ばかりだ。何かが届いている様な気がする。
私は今日の読書会で解説に似た感想を喋ったが、これはそんな底の浅いものではないだろうとも思っている。どうせ読むなら二、三度読み返したり、出来れば感想文を書くのが良いのだろう。
10月24日:テーマのある読書会「価値観の色々」
mtさん『ヴェニスに死す』トーマス・マン著
価値観というテーマから、価値の転換点を扱ったものをと思い、本書を選びました。ヴィスコンディによって映画化されていますが、劇中で使われた交響曲5番4楽章のアダージェットが繊細さを醸し出し印象的です。映画での主人公は音楽家で、マーラーがモデルとされています。対して本書では、著者自身がモデルで、1912年に発表されました。今回、読んだのは岩波文庫で初出1939年、翻訳も古いタイプのもので、その分、重厚さが伝わってきます。全5章のうち、3章まで読みました。
主人公の老作家は、栄誉を手にしながらも精力の衰えが気になっています。憂鬱な気分を払拭するために一路、ヴェニスに向かうことにしますが、船上では若者の恰好をした年配の男性を見、驚きます。ヴェニスに到着した老作家は、ポーランドから来た家族と同じ宿に滞在します。その中に10代前半と思われる少年がいました。この少年は船上で見た年配の男性とは対照的な存在で、老作家は「ギリシャ美の象徴」として心を奪われます。
パラダイムシフトという言葉があります。認識の枠組が大きく変化することを意味しますが、本書が書かれた頃の19世紀末~20世紀初は、まさにそんな時代だったのではないかと思います。そうした背景から、夢中になりながらも相手にされない老作家と少年との関係が古い時代と新しい時代を象徴しているかに思われました。老作家の価値は、伝統的な価値に名を連ねることと推察でき、貴族の称号「フォン」を拒否しなかったことが、それを示しているように思われました。もしかすると老作家は、ギリシャ時代のプラトニックラブ(少年愛)のように、少年を導きたいという妄想を抱いたかもしれません。しかし、少年は、老作家の思いにはまったく関与せず、同じ価値を共有していないことが見て取れます。
どうしても映画の影響が強く、バイアスのかかった目で読んでいる可能性は否めないのですが、しかし、本と映画という媒体の違いから、表現に違いがあり、面白いなと感じました。
よしだ『生物多様性』本川達雄著
今日はサンゴの生態系と、その生態系が崩されているというところを読みました。
サンゴは、動物です。だから食物連鎖的には植物の恩恵にあずかることになります。しかしサンゴがいる熱帯の海では、植物が生きるのに必要な窒素やリンが海中に浮遊していません。植物は成長していくことができません。そこでどうしたか、、。
サンゴは細胞の中に褐虫藻(かっちゅうそう)という植物を住まわせることにしました。サンゴの排泄物には窒素やリンが含まれます。昔は畑の肥やしに家畜の糞などを使っていましたが、それと同じことです。褐虫藻はサンゴの中で必要な栄養をもらって光合成をすることができます。二酸化炭素もサンゴが吐き出してくれます。反対に、サンゴは褐虫藻から、光合成でできた栄養や酸素をもらいます。超強力なタッグの完成です。
そんな奇跡的な名コンビがいることで、サンゴのいる海には生き物の豊かな世界が広がっています。生態系すげぇ。
過去の読書感想はこちらに載せています。
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(吉田)