2021.11.22

読書会の読書感想(11/20-22)

 参加者に任意でいただいた読書感想を掲載します。11月20日(土)は9名、21日(日)は9名、22日(月)は5名の参加でした(主催者含む)。
 土曜日の「質問「   」について考える時間。」の質問は、

愛は盲目それとも千里眼どちらだと思いますか

でした(田中未知著『質問』(文藝春秋)より)。


11月20日:テーマ「出合いたいもの」の読書会

yuさん『燃えよ剣』
 鳥羽伏見の戦いあたりで、急に作者がその跡地を訪ねるところを読みました。信じているもの、信念のようなものを持っていたとして、それが永遠でないことを薄々感じることはどんな心地かなと思いながら読んでいました。出会いたいものは真実かもしれなかったもの?

 他の方は、深夜特急でインドからロンドンまでバスで行ってみようと思い立って旅行した話や原田マハさんの食べてみたいものなど。旅行や食べ物ってワクワクするなと思いました。

だいぽんさん『ほんのよもやま話 〜作家対談集〜』
 作家同士の対談、オススメ本など興味が尽きない内容がぎっしりと詰まった本でした。

Takashiさん『ブッダのことば』中村元(訳)
 自分とか自己についてブッダはどう言っているのか?

 解説書ではブッダは自分自身というものは有ると言ったり無いと言ったりしているらしい。原典に近いものではそれをどう説明しているのだろうか。私はそれを知りたい。

 しかし今日の読書時間ではそこまで辿り着けなかった。いやひょっとして何度熟読しても見つからないのかもしれない。

 速読の世の中だが私はそこに乗れないし、かといって遅読にも程があるという気もする。まあ自分が面白いならそれでいいか。でも自分って何だ?

つやまさん『心はどこへ消えた?』東畑 開人
 ここ20年のグローバル資本主義の台頭や、新型コロナのパンデミックという大きすぎる物語の前に、個人的でプライベートな小さすぎる物語はかき消されてしまい、それを拠り所とする心もどこかに失われてしまった。しかし心は何度でも再発見されなければならず、そのためには小さなエピソードが語られ続けなければならないーー
 エッセイでは日常の何気ない出来事に対する洞察の切り込み方が、さすが心理士という感じで面白いです。今回読んだのは、著者と心理士を目指す仲間が、揃って学生時代に野球部の補欠だったという発見から、補欠はいつも世界を外から見ている存在だったので、同じように恐れながらも世界と交わりたいと願う補欠的な魂を癒す心理士という仕事を選んだのであり、補欠と心理士には魂のつながりがあるという仮説を立てる話で、本当かどうかわかりませんが妙に納得してしまいました。補欠的な魂、良いじゃないかと思いました。

11月21日:読みたい本を気ままに読む読書会

小澤さん『人工知能のための哲学塾 未来社会編』
【概要】
 人工知能を哲学した本。未来社会編とあるように本書では、技術的な面(内側)ではなく、社会(外側)から人工知能を考察している。
 そして技術サイドを著者である三宅さんが、哲学サイドを大山さんが担当して、それぞれ違う入口から山を登っていくという構成になっている。
 本書は図が豊富に用いられているため、書かれている内容の俯瞰がしやすい。
 ざっくりといえば、AIは単体でできあがるものではなく、他者とのつながり(社会)を持たせることで高度なAIになるということが書かれていた。

【感想】※読書中の状態
 人工知能に五感センサー+身体をつければ単体としてはそれなりに人間のように見えるとは思うが、それは人間で例えれば、ヒトという動物にすぎない。
 これに社会や文化というものを加えていくことで人間になっていくので、AIも社会や文化をいかにインストールさせるかは将来の課題だろうと思う。

 本書は社会という観点からAIを形作るというアプローチで記載されているが、AIが社会に対してどのようにフィードバックをすべきかみたいなところまで踏み込めたら、AIによる社会参加まで考えることができて面白いだろうなと感じた。
 人工知能はシリコン製の脳でできた人間を開発していくことに近いので、おのずと人間そのものを考察する必要があるので、哲学とも相性がよいのだなと感じた。

mtさん『本心』平野啓一郎著
 2040年代初頭(※)の日本では、安楽死が「自由死」という呼び名で合法化されています。主人公・朔也の母は自由死を希望しますが、朔也の同意を得られないまま事故死します。なぜ、母は自由死を希望したのか、その本心が知りたいと思った朔也は、ヴァーチャルフィギュアによって母を甦らせます。ヴァーチャルフィギュアとは、生前の情報から人工知能によってその人を再構成する装置であり、生前の姿で、聞いた話は情報として蓄積し、統合論的に返答するというものです。ただし、心はないとのこと。

 朔也はリアルアバターとして働いています。リアルアバターは、VRによって依頼主が現地へ行かずに現地での体験ができるよう代わりに現地へ出向く仕事です。感謝されることもありますが、暑い日の外出など、人が嫌がるような依頼も少なくないようです。リアルアバター従事中は、自分の意思で動くことができません。社会的には底辺の仕事として認識されています。

 自由死は個人の尊厳の問題といった文脈で語られてしまうと、社会の問題という側面が見えにくくなるように思います。しかし本書では、経済格差の問題と絡めて、社会の片隅に追いやられた人たちが自由死を選ばざるを得ないことに言及しています。ならば、金持ちは楽しんでいるのかといえば、そう単純な話でもないようです。

 属性にかかわらず人間とは記号的な存在ではなく複雑な存在であること、自分との関わりや情報によって知っている他者がその人のすべてではないこと、わかったつもりになることの傲慢や暴力性にも言及されているように思いました。ということで、分人主義だなと。

 最近、ブランディングが進んでいるなと感じる著者です。

※感想を述べる際に「30年後の未来」と言っていたかと思いますが、「2040年代の入口」と記述されていました。大変失礼いたしました。

yuさん『焼跡のイエス』
 短編でした。敗戦直後、上野のガード下の闇市で、主人公の私が浮浪児がキリストに変身する一瞬を目にする話です。なぜキリストなのか、唐突で分かりかねましたが、作者はフランス語を学びカトリック思想、社会主義思想を深めていたようです。特に浮浪児の描写が何行にも渡り綿密なのが印象的でした。

 参加の方はいろんなジャンルに分かれていて江戸川乱歩の話になったりしました。

だいぽんさん『ビットコインとブロックチェーンの歴史・しくみ・未来』
 デビューしたときからファンになった三島賞・芥川賞作家である上田岳弘さんの『ニムロッド』にビットコインの話が出てきて、興味を持ちいろいろな関連本を買い、その中の一つです。わかりやすく、ビットコインやブロックチェーンについての入門書として良かったです。
 一度、通読しているのですが、また再読したいと思い選びました。ビットコインの考案者である、サトシ・ナカモトについて大変気になります。また、次回も読みたいと思います。

11月22日:読みたい本を気ままに読む読書会

おおにしさん『家族と国家は共謀する サバイバルからレジスタンスへ』信田 さよ子
(拾い読み範囲での要約)
 一般にカウンセリングに必要なものは共感であると言われるが、著者は考えることがより大切だという信念でDVや虐待の歴史的・構造的背景を考えてきた。
 そして得た結論はタイトルにある「家族と国家は共謀する」という暴力被害のパラダイムシフトである。
 軍隊という組織の中で起きた暴力と、家庭という閉鎖空間の中で起きた暴力とは相似形であり、前者は戦争の正当性という国家イデオロギーを守るため、後者は男性中心社会のイデオロギーを守るために、その被害が隠ぺいされてきたと著者は考える。
 米国では1980年代に、ベトナム戦争帰還兵の戦争被害者救済のために、トラウマやPTSDという病理的概念が作られた。
 その後DVや性虐待の家庭内暴力についても、被害者の認定や救済(治療)が進むようになった。

(感想)
 日本政府は古きよき家族の伝統を重んじる「家族の日」制定など反ジェンダーフリー的政策を掲げており、夫婦別姓さえ認めない。
 政府(自民党の一部?)は、日本の家制度の崩壊を心底恐れているようにみえる。
 口先ではダイバーシティを唱えながら、DVや性虐待の対策に消極的である政府は個人の多様性を認めず、家族単位で国民を管理しようとしているとしか私には思えない。

(その他)
 読書会の雑談の中で私が紹介した本は平野啓一郎『私とは何か 「個人」から「分人」へ』です。平野さんの分人主義で私も救われました。ぜひ、手に取ってみてください。

Soi Tomsonさん『グローバリズム以降』エマニュエル トッド (聞き手:朝日新聞)
 朝日新聞の記者が1998年から2016年にかけて文化人類学者、人口学者であるエマニュエルトッドへのインタビューをまとめたもの。
 2021年の現在において彼の予想通りのもの、そうでないもの様々であるが、グローバリズムのその先に彼が何を見ようとしていたのかを人口統計や民族文化の視点から知るのがとても興味深かった。

よしだ『マジョリティ男性にとってまっとうさとは何か』杉田俊介著
 ほかの方が読書会で読んでいて気になっていた本です。男性としては、軽々しく感想を話していいものかはばかられるテーマの本でしたが、読書会で読んでみました。

 とても難しい問題だと思いました。この本では、差別や抑圧を感じていない人はマジョリティであり特権階級であるとしています。つまり、特別な境遇になくても、いわゆる一般男性であるというだけで特権的な地位にあるとされています。そういう人は、自分が特別だと思っていないから実は生じている差別的な社会構造に目がいきにくい。

 本を一冊読んだところで、社会的に問題だと知ったところで、特権的な立場にある人が、自分ごととして本気でその問題に向き合うようになるとは、あまり思えません。もうすこし抽象化して、偏りがある社会のなにが問題なのか、深いところでの問題認識が必要なように感じました。



過去の読書感想はこちらに載せています。

読書会参加者に投稿いただいた読書の感想です(2024年10月-)。

 

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(吉田)

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