2021.11.29

読書会の読書感想(11/26-28)

 参加者に任意でいただいた読書感想を掲載します。11月26日(金)は5名、27日(土)は7名、28日(日)は5名の参加でした(主催者含む)。
 日曜日の「質問「   」について考える時間。」の質問は、

音もしないのに振り向くことがありますか

でした(田中未知著『質問』(文藝春秋)より)。

 

11月26日:読みたい本を気ままに読む読書会

yuさん『インディゴ』
 「インディゴ」は架空の病気インディゴ症候に罹患した子供をめぐる話です。作者も作中に登場して何が現実で何が架空のことか読んでいるうちにごちゃごちゃになってきました。もしかして私たちが現実と思っている世界もそう見せられてるだけなのかななんて考えたりしました。

 今日は言葉に宿る力みたいなものの話で繋がっていた気がしました。ボルヘスわたしも読んでみたくなりました。

JPさん『詩という仕事について』
 今日読んだところは、英語の詩の訳が出てきたりして訳語を確かめながら読んでいたら、すぐに時間が経ってしまいました。短い時間のなかでも詩のなかに潜り込めたような、あまりたくさんは読めませんでしたが、時間の奥のほうに行ってきたような感覚になりました。
 私は、夜の読書がいいなと思います。
 今日の読書会には静けさを感じていました。
 これから寒くなるので、あたたかいものでも飲みながら参加させていただきたいです。そういうときににぴったりな本を探しに本屋さんにいくのもまた楽しみになりました。

シンカイダイキさん『ヴァルカンの鉄槌』
 超高性能のコンピュータの初代「ヴァルカン」が開発されたのが、1970年とされており、「第一次核戦争の初期」とあります。1992年に第一次核戦争が終わり、世界連邦のもとで新秩序が構築される。翌93年に最新の「ヴァルカン3号」が造られ、すべての政策決定がこのコンピュータに委ねられる。それに反対する「癒しの道」教団も登場し、フィリップ・K・ディックの描くディストピア小説として、1960年に刊行されています。

つやまさん『野の医者は笑う: 心の治療とは何か?』東畑開人
 腕の悪い医者を意味する『ヤブ医者』は、もともと『野巫医者』と書かれ、朝廷に仕える正規の医者ではなく、在野で治療行為を行うシャーマンのような医者のことを指していた。沖縄ではいまだに民間信仰が強く残っており、精神疾患などになった人は『マブイ(魂)を落とした』と言われ、マブイを見つけて戻すことで回復するとされる。著者は現代の心理学を専門としてカウンセリングを行う心理士だが、著者のもとでどうしても効果が現れなかった難しいクライアントが、怪しいヒーラーの診療で見違えるほど回復したことに衝撃を受け、自ら民間療法の世界を体験しながら、現代の心理療法と伝統的な民間療法の関係について調査を始める。というところまで読んでまだ序盤ですが、帯の「軽薄でないと息苦しい時代だから、軽薄なものが癒しになる」という言葉にどう繋がっていくのか気になります。

11月27日:読みたい本を気ままに読む読書会

原有輝さん『思想史としての「精神主義」』
 嫁姑問題は、いつの時代も絶えないと思いました。本書は、福沢諭吉や清沢満之や暁烏敏等の明治知識人による、ヨーロッパの文献学に基づく、語り直しです。福沢諭吉の愚民観や、親鸞、蓮如、歎異抄解釈や、家族問題に触れています。

Yukikoさん『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』
 イギリスで中学校生活を送るイギリス人と日本人のハーフの男の子の毎日をその母親である著者が描いています。

 日本にいると意識出来ない、「日本人」、住んでいる国「イギリス」そして人種差別を日々、感じている著者の息子さん、子供はやっぱり考えが柔軟でその世界に割と早く適応するのだなあとか、やっぱり小さい頃から色々な人達と出会い、考える事がその後の人生を豊かにしなやかに生きていけるのかなあと思いました。

 大人の私も見習いたいです。

 昨日の感想の補足です。
 感想の時間でこの本の章「プールサイドのあちら側とこちら側」を読みましたか?と聞かれ、まだそこまで読んでいないんです。と話ましたが、読んでいました!
 あの章はよかったです。
 日本人にはあまり身近に無い他人種同士の養子縁組、しかも経済的にも人格的にも優れた親に引き取られたラッキーな子供の話。
 そんな状況で丁寧に愛情深く教養や教育、お金をかけて育てるとこんな素晴らしい才能がある子供に育つんだという事が書いてあります。
 みんながみんなそんな風に育つとは限らないけれど、日本でも子供が欲しくても授からない人達に養子縁組という選択肢を選んでくれる人が増えたらいいなと思いました。
 話は変わりますが、
 YouTubeで保護猫を保護するサイトがあります。その保護猫をお風呂に入れて、トリミングして、餌や暖かい寝床を用意して、愛情深く接していると猫の表情がみるみる穏やかで優しい顔になります。
 人間も同じではないのかなあとサイトを見る度に考えさせられます。

シンカイダイキさん『ビットコインとブロックチェーンの歴史・しくみ・未来』
 ブロックチェーンは、従来の中央集権型ではなく、分散型のシステムを取り入れている。デジタルファイルは簡単に複製できるが、ブロックチェーンは複製ができない。

つやまさん『日本が壊れる前に——「貧困」の現場から見えるネオリベの構造』中村敦彦、藤井達夫
 ノンフィクションライターと政治学者が、現代の日本社会に蔓延する閉塞感や不信感の一因である「ネオリベ」について、政治的な面からとらえて対談している本です。若干話を盛っているようなきらいはありますが、日本社会にネオリベが浸透してきた経緯や、様々な政策とネオリベの関係などが整理できると思いました。

・「新自由主義」「ネオリベラリズム」は、選択の自由と競争が最重要とされる思想である。ネオリベの下では、労働・教育・医療・社会インフラなどあらゆる人間の活動が市場化され、その結果ブラック労働や格差拡大による階層の分断などが起き、社会が不安定になる。本来選択や競争が向かないものまで無理に市場化される危険もある。
・経済の問題ととらえられることが多いが、政治の問題である。昭和の時代は市場の自由と政府がかける規制との間で均衡がとれていたが、経済成長の低下やアメリカからの規制緩和の圧力などを受け、ネオリベの目指す小さな政府を実現するような政策を推進していった。ネオリベという観点から政治に関心を持つ必要がある。
・多くの一般的な国民はそこまで自由や競争を望んでいないが、マスコミが自己責任論や起業家精神などの価値観を植え付けることで、ネオリベ的な人間を作り出していった。

・平成の不況では若者や女性がしわ寄せを被っていたが、今後は中年男性にとって苦しい時代になる。「公助」が崩れたときに頼りになるのは地域社会などの「共助」だが、男性型タテ社会に慣れた中年男性は、そうした協調的な人間関係に適応できない場合も多い。幅広く教養を学ぶことで、自分は偉くないということを思い知る必要がある。

11月28日:読みたい本を気ままに読む読書会

シンカイダイキさん『ほんのよもやま話』
 恩田陸さんと辻村深月さんの対談で、作家デビューしても兼業作家として書く人が多いのを知りました。恩田陸さんの兼業期間は8年、辻村深月さんは4年と長いのには驚きました。また、読み進めて色々と知りたいです。

Takashiさん『和解』志賀直哉著
 よくボケ防止のために趣味を持つと言ってる人を見ると、私はいつも「そんなぬるい事を言ってないで、町内会とかボランティアとか親戚関係のややこしい人間関係の中に飛び込んで、損と言われる役回りを引き受けてくれねえかな」と心の中で思ってしまう。絶対口にしないけど。

 最もボケ防止に効くのは、複雑な人間関係の中に身を置き、矢面に立って妥協点を探すことだと思う。それが一番頭を使うし、世の中に望まれていることの一つだ。

 さて、私がそういうにっちもさっちも行かない状況に身を置かれた時、なんとなく読みたくなるのが志賀先生の本だ。頑固な人が出てくるが、その頑固さはまったく単純ではない。そんな機微を志賀先生特有の強い言葉でがっつんがっつん掘り下げていく。

 「そこまで言う?、素直じゃないなあ、この人かわいそう、何でこうなっちゃうの?」など、いろいろ突っ込みながら読んでるうちに、逆に何だか自分の悩みを聞いてもらってる様な気がしてくる。いいなあ、志賀直哉。

つやまさん『野の医者は笑う: 心の治療とは何か?』東畑開人
 前に読んだところの続きを読みました。
 医療人類学という学問分野があり、先進国の現代科学に基づいた医療から伝統社会のオカルト要素が強い医療まであらゆる医療を対象として、科学的根拠があるかどうかに関わらず、文化的な観点から病を癒すことの根底にあるものを明らかにしていくそうだ。著者は精神療法にも同じことが言えるのではないかというアイデアを思いつき、沖縄の怪しい治療者たちに接触をこころみる。最初に選んだのはオーラソーマという謎の道具を使う、新米の魔女系治療者だったが、空間の雰囲気や彼女の言動の「いかにも」な感じに居心地の悪さを感じてしまう。このような治療者たちの話を聞くと、自身もかつて複雑な生育歴や精神的なトラブルを抱えていたというケースが多く、ユングのいう「傷ついた治療者」という概念に当てはまるそうだ。
 というところまで読みました。怪しい治療者への心理士目線からの率直なツッコミと考察が面白いです。人の身体や心は何をもって癒されているのか、改めて考えてみるとけっこう深いなと思いました。

mtさん『美学への招待』佐々木健一著
 作品に力があるならば、よけいな知識は不要だと思っていました。しかし、紹介頻度の高い作品や小説や映画で取り上げられた作品などは、親しみがあるせいか、よい作品だと思ってしまいがちです。少しづつですが、作品が作られた時代や象徴的小道具(アトリビュート)、なにを描こうとしたのかといった作品の背景なども意識することで、作品の見え方が違ってきたように思います。

 私たちは、やや面倒な問題でも公式を使うことで、ちょっとだけ便利に速く問題を解くことができます。その公式には、使える問題と使えない問題があり、万能とはいえませんが、場合によっては力を発揮するものだと思います。本書も、ちょっとだけ便利に藝術作品に近づくために、そして引き出しを増やすために、読んでみようと思いました。

 本書は美学入門として、近現代の美学の基礎知識という位置づけで書かれています。近代という言葉には曖昧なところがあるので調べてみたところ、封建主義の後の資本主義社会・市民社会の時代を指すそうです。年代でいうと16世紀~19世紀ごろ。本書によると、この時代は、天動説から地動説へ移行した時代であり、神の不在による不安定な闘争の時代とのこと。そうした中で、平和な社会を築くために時代が必要としたものは、創造的な力を持った天才であり、新しい価値を測るための感性という考え方です。1750年、バウムガルデンは、『Aesthetica』(感性=美学)を著し、その中で「藝術の本領が美にあり、美は感性的に認識される」と述べています。この「藝術」「美」「感性」は、近代美学での重要な3つの要素なのですが、現代では「美しくない藝術」が登場し、感性ではなく知性によってしか理解できない状況が進展しているといいます。「本書では、」「そのような状況に注目」と著者が述べたところまで読みました。

よしだ『ソフィの世界』ヨースタイン・ゴルデル著/池田香代子訳
 今日で読み終わりました。本全体としては、哲学の大まかな歴史を3000年前の神話的な世界観の時代から近代まで学べるものでした。また、ファンタジー小説なので、途中からすこし不思議な展開に…。

 各時代の哲学の各論もおもしろいのですが、本としては、人間の考えてきた歴史、世界の認識の仕方の変遷を表現していたのではないかと思います。最後は、ネタバレになってしまいますが、並行世界の存在をにおわせる内容になっていました。

 物事や人間に対する認識はコロコロ変わってきた、そしてまだまだわからないことはたくさんある。世界は不思議にあふれている。主人公は14歳の少女でしたが、著者がこれから大人になっていく・あるいはすでに大人になっている読者に伝えたかったのは、そんなことのように感じました。不思議への興味を失くさないこと、そして疑問から目を背けないこと。
 今あるものをただ受け入れるだけではなく批判的に考えていくことが自立するということである、物語の展開からはそんなメッセージも感じました。著者は元高校教師らしいですが、そんなことを考えながら先生をしていたのかな、なんてことも思いました。

 


 過去の読書感想はこちらに載せています。

読書会参加者に投稿いただいた読書の感想です(2022年10月-)。

 

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(吉田)

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