参加者に任意でいただいた読書感想を掲載します。1月11日(火)は4名、14日(金)は9名、15日(土)は4名、16日(日)は7名の参加でした(主催者含む)。
日曜日の「質問「 」について考える時間。」の質問は、
首のない影のできる時間を知っていますか
でした(田中未知著『質問』(文藝春秋)より)。
1月11日:読みたい本を気ままに読む読書会
おおにしさん『水中の哲学者たち』永井玲衣著
著者は哲学研究者で哲学対話のファシリテーターをしている女性です。
子どもの時から対話が苦手で特にホームルームでは一言も発言しない少女だったのですが
大学に入って哲学対話に出会い、その面白さに魅かれ哲学対話の普及活動をしています。
本書では哲学対話を行っている様子がいろいろ紹介されていますが、これがなかなか興味深いので引用します。
(1)「死んだらどうなる?」というテーマで話し合う小学生たちの中で最後に発言した女の子
「みんなは、生きるということがメインで、そのために死んだり生まれ変わったりするっていっているような気がするんだけれど、そもそも、生まれ変わるということ自体が目的で、そのために死んだり生きてるだけだったらどうする?」
(2)「神は存在するか?」という問いで対話した中学校での休憩時間に著者に話しかけた女生徒
「神さまって、酸素だと思うんです。神さまって見えないじゃないですか。酸素も見えない。てことは、神は酸素なんじゃないかって」
”じゃあ神さまはそこら中にいるね”と著者が言うと、「でも、吐いたら出て行っちゃう」とはにかんで笑った。
このように哲学対話は子供から大人まで誰でもできるもので、どんな意見も頭から否定はせずよく聴き、ひとつひとつ吟味することで、様々な気づきを得られるものだと理解しました。
リベルの読書会でもときどき哲学対話をしているのではないかと思う瞬間がありますね。
早川麻子さん『長い長い殺人』宮部みゆき
殺人事件にかかわる人物の財布が話を進行していく。今日は目撃者の財布と死者の財布の話を読んだ。財布が語ることから、持ち主の人柄や、事件の真相が少しずつわかっていくのが、面白い。それぞれの財布の語り口調も違う。財布が持ち主のことを心配しているところから、私は自分の財布にどう思われているのかなぁとも考えてしまった。
今日はモヤモヤして終わった。この世のことをどう思っているか…?死んだら自分のしていることの意味が無くなってしまうから、無意味ではないか、とか、親の思想を受け継ぎ、自分の思想を子どもに引き継ぐから生と死の境が無いのでは、とか色々な考えが出てきた。私はこの世でどう生きたいのか?丁度、今年の目標、人生の目標を考えていたところだったが、こちらもなかなか見出せず、さらにモヤモヤに…。(折角生まれたのだから、楽しく生きたいよな。何か残したいよな。でも、何が残せるのかな?残ってて良かったと言われるものを残したいよな。残ったら困るかもよ。)哲学は面白いけど、すっきりしない。
Soi Tomsonさん『日本人が誤解している東南アジア近現代史』川島博之著
本書について:東南アジアについて書かれた本。人口、歴史、経済、華僑をテーマに四章で構成。著者は元農林水産省の研究官、専門は開発経済学。
本日読んだ部分:タイの近現代史
タイは中国やインドに比べると文献として残る歴史は浅く、約700年前のスコタイからはじまるといわれている。もともとこの地域は様々な部族が入り乱れて住む地域で、国境が曖昧であった。現在の国境は19世紀の列強の意向で決まったといわれている。またタイは巧みな外交手段で東南アジアにおいて唯一植民地にならたかった国である。第二次世界大戦時には日本と同盟を組んだにもかかわらず戦局を読みつつ曖昧な関係を保ち、結果敗戦国にはならなかった。
感想:長年農業の研究(主に稲作)に携わってきた著者の切り口が大変面白い。特に一章の人口問題は食料自給率、出生率などと関連付けて述べており、これまでの自分の思いこみの部分について修正できた。タイの歴史はその地域に多くの民族が居住し、陸続きだということを考慮すると歴史的に処世術が身についてきたのだと感じた。そんな経験値の高いタイに日本軍はむしろ踊らされている(利用されている)印象を受けた。(もちろん日本軍が行った歴史的事実も受け止めたうえで)
読書会全体の感想:社会を構成するうえで、個人主義的、集団主義的な考えのそれぞれの利点をうまく使うことが大切なのかなあと感じた(社会の何かに躍らせれているのかも知れないが)。また、財布はその持ち主のキャラクターを反映するのかもということで、自分の財布をおもってちょっぴり財布に申し訳ない気持ちになった。
よしだ『社会心理学講義』小坂井敏晶著
自分の行動の原因は自分の意志にあると考える個人主義的な人ほど、周囲の影響に気づきにくいというところを読みました。さまざまな心理的操作の上にその行動をとったのだとしても、自分がそう決めたのだという前提のもとに、自分がそれをやった正当な理由を後からつけていくのだそうです。反対に個人主義的傾向が弱い人は、「あの状況ではああするしかなかった」と、ある意味では冷静な理由を述べることができるのだそうです。
これは個人主義的な思想観念がいいのか悪いのかという話ではなく、人間に本当の自由は存在しないのではないか、という科学的な問いかけなのだと思います。自由のもとに個人の意志をもって生きていると捉えすぎてしまうと、責任に囚われすぎてしまったり、周りに委ねることが難しくなったりするように感じます。人間は自分のことを自分で抱えきることはできない。物質としては他と離れている個体なのだけれど、人としては個体ではありえない。他の方の話も合わさっていろいろなことが巡る時間でした。
1月14日:読みたい本を気ままに読む読書会
原有輝さん『全世界史(上)』
人類の歴史は、温暖化と寒冷化を繰り返して来て、寒冷化すると民族大移動で戦乱や民族大移動があったり、気候がすごい影響するのがわかりました。
また、歴史には、グランドデザインを考える人とそれを踏襲する人がいて、グランドデザインを考える人は短命だが、踏襲する人は長期政権を築くのがわかりました。
人類史のはじめのうちは、才能ある個人が一代で国を築くも、すぐに内紛など政権交代が起こる例が多いですが、帝国が出来て道路や官僚機構を整備するようになってからは、長期政権が続いたようです。
シンカイさん『ユニクロ対ZARA』
ユニクロが、ユニセックス、低価格、ロードサイド店舗など独自の戦略を持っていることが印象的でした。
よしだ『時間は存在しない』カルロ・ロヴェッリ著/富永星訳
現代物理学では時間は重い物体の近くに寄るほど遅くなると考えられているそうです。だから、より地球に近い地上の方がエベレストの上よりも時間は遅いことになります。でも無視できるほど小さい違いだから、一定の時間としているだけ。
宇宙にはさまざまな星があり、それらはまた違う星々に囲まれて時間的な引っ張り合いをしています。だから時間の流れも、それぞれに違うのです。ものすごい遠くにある星を望遠鏡で覗くことができたら、もしかしたら地球よりも遅い世界か速い世界が見えてびっくりするかもしれません。
1月15日:テーマ「あいまいさ」の読書会
Yukikoさん『ゆるく考えよう』
今日は資本主義の行く末、子育て論などを読後の感想でゆるゆると考えてみました。
昭和、平成、令和と生きて30年前には考えられなかったテクノロジー(スマホやネット社会)、自然災害、中国の台頭、コロナで変わってしまった社会、そしてこれから来る未来、考えても考えてもナナメ上を行く事態がやってきます。
結局は自分の好きな事を続ける、人生を楽しむそれに尽きるのかなあと思ったのでした。
Takashiさん『「豊かさ」の誕生』ウィリアム・バーンスタイン著 日経ビジネス文庫
本書は経済の歴史の本だ。まだ上巻の六割くらいしか読んでいないけど。
歴史はストーリーが無いと理解できない。著者は経済という切り口でストーリーを提示してくれている。色々とつながれば楽しいだろうな。
よしだ『昭和の不思議101 隠蔽された真相解明号』
すこし前の読書会で、秩序立ちすぎている今の社会は逆に生きにくさを生んでいるのではないかというような本を読んでいる人がいました。共感を覚えるところもあったので、今よりももうすこしいいかげんなイメージがある昭和に触れてみたいと思い、この本を選びました。電子書籍の雑誌です。
本では昭和の事件やニュースが紹介されており、「こっくりさん」や「カシマさん」など、オカルトも紹介されていました。こっくりさんは、全国の学校で禁止令が出るほど、危険なものだったのだとか。ある生徒が具合悪くなったときに「こっくりさんに呪われた」と言い出して、一緒にこっくりさんをやってた生徒も一緒に具合悪くなっていくというカラクリ(?)なのだそうです。今でも学校でオカルトが流行っていたりするのかな、などと気になりました。
1月16日:読みたい本を気ままに読む読書会
つやまさん『健康的で清潔で 道徳的な秩序ある社会の不自由さについて』
令和時代の日本社会は、昭和の頃と比べて豊かになり、法規制が徹底されることで人々のマナーが向上し、都市も現代的に整備されて清潔になった。私たちは以前より格段に便利で快適な生活を送れるようになったが、それは裏を返すと、人々に自立した個人としての高いクオリティが求められること意味しており、メンタルヘルス、健康、子育て、清潔さ、コミュニケーションなど、様々な面で歪みが生じてきている。
今日読んだところは子育ての話。大人社会での秩序の向上にともなって、子供にも秩序あるふるまいが求められるようになり、本来動物的である子供を生み育てるということが大きなリスクになっている。親は子育てに神経質にならざるをえず、子供の心に与える影響が懸念される。昭和の子供では取っ組み合いの喧嘩や飲酒喫煙など秩序を外れる行為が問題であったが、現代の子供ではいじめなどの秩序の中で起こる問題に変化してきており、また何がいじめにあたるかという定義も拡大してきている。かつては子育ては地域社会全体でオープンに行われていたが、現代では各家庭に閉じ込められてしまい、親の責任の増大や様々な知識を学ぶ機会の格差などの問題が起きている。
参加者の方の感想もお聞きして、社会が便利になれば子育てをしやすくなるわけではないんだなと、考えさせられました。
mtさん『憲法という希望』木村草太著
著者は、国家権力には三大失敗があるといいます。その失敗とは、①無謀な戦争、②人権侵害、③権力の独裁であり、①に対して憲法9条、②に対して憲法13条、14条1項、15条、③に対して三権分立が対応しています。
前の政権では9条の改憲に積極的でした。当時、その考えは同意できるものだと思っていました。武力で攻められた場合、自国を守るために応戦できるだけの準備があるほうが心強いだろうと思ったのです。他国に守ってもらうだけでいいのかという疑問や、自衛隊の位置づけのあいまいさと不名誉な言われ方に対する異和感もありました。また、永世中立国のスイスが、強い軍隊を持っているのは有名な話です。
しかし、自衛隊が戦地に派遣された際に、そこに暮らす人たちの生活をフォローし喜ばれていたこと、戦わないことが信頼につながっていたことなどを知り、改憲は必然ではなく、日本には戦闘以外のやり方や役割があるのではないかと考えるようになりました。
著者は、単体の条文を読むだけでは十分ではなく、文脈で読むことが重要であると述べています。
たとえば、9条では戦争放棄となっていますが、武力によって侵略をされた際、人権侵害として13条、14条1項、15条に抵触すると見なし、抗戦は可能ということです。
憲法をはじめとした法律の条文は、さまざまなケースに対応するため抽象度の高い文章で書かれています。結果として、同じ条文であっても、思想信条や立場などから違った読み方をすることは十分あり得ますし、情報量によっても違った見解に至る場合もあると思います。だからこそ、憲法にはどのような意義があるのか、どのように使いこなすのかを知ることが、タイトルにある「希望」へとつながっていくということに、なるほどと思いました。
2章の頭くらいまで読みましたが、歴史的経緯や対立する考え方を偏ることなく示したうえで、具体的な観点を整理しつつも、ユーモアをまじえた語り口に好感が持て、クスクスと笑いながら読んでいます。
シンカイ ダイキさん『NETFLIX コンテンツ帝国の野望』
ビッグデータを使い、継続して観たい監督や俳優を使ってオリジナルのコンテンツを作り、1シーズンまるごと配信するという強気な戦略で、F(フェイスブック)A(アマゾン)N(ネットフリックス)G(グーグル)、FANG(牙)と呼ばれるまでのIT関連事業をもたらす企業の内幕を描いているノンフィクション。大変興味深いです。
過去の読書感想はこちらに載せています。
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