2022.02.18

読書会の読書感想(2/16-20)

 参加者に任意でいただいた読書感想を掲載します。16日(水)は4名、17日(木)は6名、19日(土)は4名、20日(日)は10名の参加でした(主催者含む)。
 土曜日の「質問「   」について考える時間。」の質問は、

女性の名前では何というのが好きですか

でした(田中未知著『質問』(文藝春秋)より)。

2月16日:読みたい本を気ままに読む読書会

yuさん『行く,行った,行ってしまった』
 ドイツの小説です。書評に掲載された本で読み始めました。中東や北アフリカでの戦争を機に2014年からドイツに250万人以上の難民が流入したことを基に書かれたそうです。
 ひとりの定年退職近い男が職場を片付けているところからはじまります。妻をなくし子供もない男。社会問題とは遠いところにいそうです。

 腸内細菌やマズローの欲求、詩についてなど、目に見えにくいけど感覚的なものについて手探りで話した気がします。腸はかしこい。

よしだ『完全なる人間』アブラハム・H・マスロー著/上田吉一訳
 自己実現、5段階の欲求仮説などで有名なアブラハム・マズローの本です。タイトルがすこしあやしい。。
 しかしおもしろいのは、本の序盤でマズローが「自己実現という呼び方はマズかった…」などと後悔していること。その理由は、自己実現は利己的なイメージを植え付けるが、マズローが言う自己実現的な人は愛他的で自己というよりも課題に目が向いている人だからだそうです。しかしマズローがどんなに注意を払ってそう説明しても、利己的なイメージで受け取られるのだとか。なにか時代背景なども関係していたりするのでしょうか。
 この本では、欠乏による欲求(生理的・安全・所属・承認)と成長に向かう欲求とを分けて考えられており、おおまかに言って後者の欲求に突き動かされている方が健康的であるといいます。そのためには欠乏による欲求がある程度満たされていないといけないとも。そういう意味では5段階の欲求仮説という表現は妥当なのかもしれませんが、そこまで、登り詰める、みたいな印象も本からは受けません。ひとつの健康的な生き方として、理解を深めていきたいと思います。

2月17日:読みたい本を気ままに読む読書会

Soi Tomsonさん『ドキュメント 精神鑑定』 林幸司著
本について:
著者は16年間医療刑務所に勤務した精神科医。
重大犯罪者の ”精神鑑定”(精神鑑定とは正式な法律用語ではないらしい)について書かれた本。本書の前半は司法の場においてどのようなやり取りがなされるのか、後半は様々な犯罪ケースを例に挙げて被告人に責任能力の有無をどのように鑑定するかが細かく描かれている。

本日読んだ箇所:後半のケーススタディを読んだ。ここに登場するいずれの犯罪者もある程度の被害妄想、強い独占欲、嫉妬心があるようだ。犯罪者それぞれの言動をより詳しく分析することで彼らの責任能力の有無を決定する。
またカウンセリングのことに触れられており、非行少年をカウンセリングを受けるグループ、受けないグループに分けて長期間にわたって追跡調査した例が紹介されていた。
驚いたことに、犯罪率では差がなかったが、重大犯罪率はカウンセリングを受けたグループの方が高かったということだ。つまり、カウンセリングを受けることで良い結果がおきるのではと過剰な期待をし、カウンセリングに依存してしまい自分自身で人生と向き合う気力がそがれてしまったのではないかと著者は考える。カウンセリングを受ける人は自己の持つ問題を自分のものとして認め、解決したいという姿勢が最低限必要だとある。

感想:白黒つけることができない心の内面をはかる作業に精神医療の難しさを感じた。
また鑑定を行った精神科医が自ら法廷に立ち、法律の専門家たちに向かって説明する大変さも書かれており、少しも気を緩めることができない現場に後継者が少ないということも理解できた。最後の部分は精神鑑定を受けた犯罪者のその後に触れられているので最後まで読み進めたいと思う。

読書会の感想:アートや本、音楽が現実社会を生きる心の支えになっているんだなあと改めて感じた時間でした。

早川麻子さん『13歳からのアート思考』末永幸歩
「1枚の絵画を前にしてすら「自分なりの答え」をつくれない人が、激動する複雑な現実世界のなかで、果たしてなにかを生み出したりできるのでしょうか?」絵が上手になったり、過去の作品の作者や年代を覚えたりすることを目的とした授業ではなく、美術の授業を通して自分の答えや考え方の持ち方を習得していく授業の提案を、6つのライブ形式の授業としてまとめられている。それぞれのクラスのはじめには読者に問いかけがあり、はじめと終わりで自分の絵に対する見方の変化にも気がつけて面白い。絵を描くことが苦手でもいいんだ、自分なりに絵を楽しんだらいいんだと思えて、早く何かの美術展に行きたい気持ちになった。

soiさんの本→十代の犯罪者に対するカウンセリングをするのとしないのとでは、カウンセリングをした方が再犯率が高いという結果に驚いた。カウンセリングを受ける側に土台が無いことに原因があるようだった。どんな犯罪をしたか解らないけど、窃盗癖や薬物、ギャンブル依存など、本人同士が話し合って回復を目指す自助グループなどもあるみたいなので、そういう方法に切り替えればいいのにと思った。
吉田さんの本→最近の道徳授業では、こうあった方がいいとはわかってるけど、できないときってあるよねっていうことについても話し合って、自分だったら何ができそうか自分なりの考えを持てるようにするという形になってきている。倫理と似たような形になってきている気がした。
他にも、子どもの自由発想をほめるばかりはどうなのかとか、他者性の話とか、幸せな人生とはなど、聞いていて考えさせられることが沢山あって、充実した時間が過ごせました。ありがとうございました!

原有輝さん『体験と創作』
 
文章が書けなくなったので、本書を読みはじめました。創作の仕方が具体的に書いてある訳ではないですが、アリストテレスやカントやスピノザやライプニッツが重要だったりと、いろいろ参考になります。

よしだ『手の倫理』伊藤亜紗著
 身体的な障害をもつ人たちとの対話などを通して研究に取り組んでいる伊藤亜紗氏の本です。今日は倫理とはどういうものなのか、というところを読みました。道徳との対比のなかで書かれていました。
 道徳も倫理も、「〜すべき」という規範意識をもたせるという意味では類似していますが、倫理は「できる・できない」を受容するという点に違いがあるといいます。たとえば、「困った人がいたら助けるべき」という道徳や倫理の規範があったときに、道徳は助けることがすなわち正となります。しかし倫理の場合は、できれば助けられた方がいいのだけど、自分に余裕がなかったり・本当に今ここで助けるのがいいことなのかと迷いが生じたりして助けることが「できない」ということも受容されるべきものとされるというのです。そして、その「できる・できない」という悩みや迷いが思索を生み、新しい概念や考え方などの創造につながっていきます。
 今日は読書会のあとの雑談の時間で、「人生は素晴らしいもの?」という問いが自然と生まれたような気がします。似たものとして、幸せとは?という問いもよく出くわすものですが、こういった問いは知らず知らずのうちに「幸せであるべき」「素晴らしくあるべき」という規範意識を植え付けるものかもしれません。規範から外れることはこころの負担になります。こういった「あるべき論」には、倫理的に自分なりの考えを深めていくことが大切なのではないかと改めて思いました。

2月19日:テーマのある読書会「あいまいさ」

小澤さん『AI監獄ウイグル』
 本書はいわゆるウイグルに関する問題を取り扱ったドキュメンタリーです。

 ウイグル監視システムの立ち上げに参画したイルファンさんや実際に洗脳なども行われたメイセムさんの話などが載っています。イルファンさんの話を聞くと2010年後に発生したウイグル人によるテロなどを防ぐための施策として信じていたが、途中から政府の意図との違いを感じ始めたという記載があります。

 今回の読書会の中で「地獄への道は善意で舗装されている」という言葉が出ていたが、まさにこれはそれを示したものだと感じました。

 監視システムはもちろんいきなり出来上がったわけではなく、中国を代表する企業の民間技術が転用されていることも驚かされます。今現在もこういった事態が発生しているということは隣国として意識すべきことに感じました。

YUKIKOさん『わたしを離さないで』
 「あいまいさ」がテーマだったので、この本を選びました。

 第一部では子供の日常を描いているのですが、何か雰囲気があいまいで大人達が何かを隠しているのですがその肝心の「何か」は先を読まないと分からない設定になっています。
 その「何か」を知りたくて、この本を読み進める感じです。

 この本で起きた事が未来に起こらない事を祈るしかないのですが、科学技術が進んでそして人の倫理観が変わってしまったら、こんな怖ろしい事を人は簡単にやってのけてしまうかもしれないという警告の意味も込めてのノーベル文学賞なのかなとも思いました。

 読後の感想で「答えのない世界を生きる」、「AI」、「腸内フローラ」の話、楽しかったです。
 今日の昼と夜ごはんは自分の「善玉菌」の為に食物繊維があるもの(善玉菌を増やす)とヨーグルトを食べてみました。
 でも昼はラーメン食べたし、夜はアルコール(糖分は悪玉菌を増やすそうです)飲んだし、あまり大腸に善玉菌が増えていないような気がする・・・。

よしだ『答えのない世界を生きる』小坂井敏晶著
 答えはないと言われると、ではいったい何を目指して生きていけばいいのかという困惑を抱くが、きっと答えがなくても生きていける。それよりも、正解を見つけた!我が意を得たり!と思ってしまうことの方が危ない。現実を見る目を曇らせてしまう。

2月20日:読みたい本を気ままに読む読書会

Takashiさん『語りえぬものを語る』野矢茂樹著 講談社学術文庫
 「言葉で表せないものがある」ということを知っている人の方が、言葉で説明し尽そうとする人よりも偉いみたいな感覚が私の中にある。一方で、そこで終了してしまうと人と人とが理解し合うことはできないとも思う。一度言葉による説明を頑張ってみて、そこから言葉で表現できる世界とそうでない世界を分けるべきだろう。

 でももう一人の自分が自分を誘惑する。
 「それって疲れるばっかで意味ねーし。何言われても俺が正しいんだから。俺は俺を信じる。以上だ!」

mtさん『ヘーゲル〈他なるもの〉をめぐる思考』熊野純彦著
 今回は長いこと積読してあった『ヘーゲル』を読んでみることにしました。ヘーゲル理解とは別に、著者の思考の道筋がわかりやすく示されていることに感心しました。先に『精神現象学』を読んだほうがいいのか迷いましたが、本書を先に読むことで『精神現象学』がスムーズに読めるかもしれないなと思いました。

 副題の「他なるもの」については、著者がレヴィナスについて論じていることから、「他者論」を連想しました。しかし、本書はヘーゲルなので、どのように論じられているのかはこれからのお楽しみです。

 ということで、「他なるもの」について質問をいただきましたが、質問の意図がわかりませんでした。この段階で?とも思いました。緒を探ってみようともしたのですが、わからないままでした。私の力不足だと思いますので、「他なるもの」について関心をお持ちならば、直接、本書あるいは「他なるもの」について論述された書を読まれることをおすすめいたします。

 「厳密な」という感想をいただきました。よくご存じなのだなと思いました。ギリシャ哲学との比較も興味深く、うれしくなる感想でした。ありがとうございました。

KENさん『お父さんが教える13歳からの金融入門』
本書は、著者のビアンキ氏が13歳になる息子さんに、お金と投資の基本を伝えるために書かせた一冊になります。

「13歳から」とある様に中学生でも読める様に分かりやすく書かれていながら、
大人の方でも金融について基礎から学べる1冊になっています。

「自分が稼げる収入の範囲で生きていかなければならない、ということだ。
 収入の一部は貯金しなくちゃならない。」P20-21
という第1章の言葉がとても印象深かったです。

金融やお金の話となると、ついどれだけ稼ぐかが頭を過ってしまいますが、
まずは収支のバランスをとること、そして、貯金の重要性を教えていることから始まる所に
とても好感を持ちました。

他にも第9章の「お金を借りる」や、第12章の「税金」も興味深く読ませて頂きました。

金融やお金の流れについて、基礎から学びたいと思っている方にオススメの1冊になります。

としさん『100のトピックでたどる 月と人の歴史と物語』著者:デイヴィッド・ウォームフラッシュ、訳:露久保由美子
 今回は、紀元前7世紀と6世紀を読みました。
 紀元前7世紀
 月の女神セレネは、何世紀にも渡って口承の対象とされていた。
それをギリシャ人がギリシャ神話として残し、今もセレネの恋愛物語が残っている(ギリシャ神話の多くが恋愛物語)。
 学者の間では当時のギリシャ人がギリシャ神話を信じていたか疑問視されているという。もしかするとギリシャ神話は、物語にすることで人々が理解が出来、伝わりやすくなったため残った。つまり、小説のような娯楽の部類だったのではないかとこの章を読んで感じた。

 紀元前6世紀
 現代物理学がバビロニアの数学へのアプローチに依存していること、また、ギリシャの天文学がバビロニアの数学とギリシャ式の定性的で概念的なアプローチの組み合わせで示されており、それが、月、太陽、惑星の理解を深めるために必要となること、そして、タレスと弟子のピタゴラスが出てきたが、数学的な話、宗教的な話があり、自分が何の本を読んでいるのか途中で分からなくなった。
 現在勉強している物理学、天文学、数学等は元は一緒だったと聞いてはいたが、改めてそう感じた内容だった。

よしだ『完全なる人間』アブラハム・H・マスロー著/上田吉一訳
 今日は、知る・探求する欲求に関するマズローの考察を読みました。
 マズローは安全に対する欲求との対比のなかで知る・探求する欲求について考えています。安全が確保されていなければまずはそれを満たそうとするから、知ろう・探求しようという欲求は安全を求める欲求に消されてしまう。だから知る・探究するためには安全が満たされていなければいけない。つまり、探究の欲求や動機づけは安全のそれと並行して考えていかなければいけないというのです。
 ここからは私の解釈も入りますが、安全とは身体的な安全だけではなく、所属や存在に対する安全も含まれるのではないかと捉えています。だから所属や尊厳を自分は得られているという実感がなければ本当の探究心は生まれにくい。何かを探究したり学んだりしていても、それは実は所属や承認を得るためのものかもしれない。この論理でいくと、大きな功績を残した芸術家や研究者などは、安全が確保されていた・既に満たされていたということになります。しかし、本当にそうなのだろうか…?ということが気になりました。


過去の読書感想はこちらに載せています。

読書会参加者に投稿いただいた読書の感想です(2024年10月-)。

 

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