参加者に任意でいただいた読書感想を掲載します。24日(木)は6名、25日(金)は3名、26日(土)は7名、27日(日)は12名の参加でした(主催者含む)。
2月24日:読みたい本を気ままに読む読書会
つやまさん『腸を鍛える――腸内細菌と腸内フローラ』光岡 知足
著者は腸内細菌研究のパイオニアで、「善玉菌」「悪玉菌」という言葉を作った人でもあります。最近「腸内フローラ」(腸内細菌の構成)と全身の健康が深く関わっていることが知られるようになってきましたが、一般に広まっている情報には誤解されている部分も多いそうです。例えば、ヨーグルトなどで生きたビフィズス菌を取り入れることが重視されていますが、実際にはその菌を定着させるのは難しいため、むしろエサとなる食物繊維や発酵食品やオリゴ糖を摂取した方が腸内環境の改善に効果的であるそうです。ただし、死んだビフィズス菌でも腸の免疫システム(腸管免疫)を活性化させる働きがあるので、大量の菌を含むサプリメントには間接的に腸内環境を整える効果があるとのことです。進化的に古い免疫システムである「自然免疫」が活性化されることで、進化的に新しい「獲得免疫」の負荷を減らし、病気に早い段階で対処したり、免疫の過剰反応であるアレルギーを抑制したりできるそうです。腸内細菌の研究は著者の人間観にも影響しているようで、悪玉菌を殲滅しなくても善玉菌が2割いれば全体のバランスは保たれる、などの点は人間が腸内細菌たちから学べることかなと思いました。この本をきっかけに、自分が好きな食べ物ばかりでなく、腸内細菌が好きな食べ物も考えて日々の食事をしようと思いました。と言いながら、ついついお菓子に手が伸びてしまいます。。
yuさん『マスク』
菊池寛の短編が9つ。タイトルのマスクは8pくらい。
100年前のスペイン風邪がはやったころの体験。マスクをつける、つけない。自分と同じ、違うことに対するこまかな観察が、面白いことを書いてるわけでもないのに、他人事だからかくすっとついしてしまう。
また、腸の環境についての菌の比率の話が印象的でした。
よしだ『ビッグ・クエスチョン』スティーヴン・ホーキング著/青木薫訳
ホーキング博士が、人類がもつ難問に答えていく本です。2019年3月に第一刷が出ましたがホーキング博士は2018年3月に亡くなりました。この本が、ホーキング博士が直接つくった最後の本になるのだと思います。その難問の1つ目は「神は存在するのか?」で、なんとも刺激的です。
この本を読むにあたっての私の関心ごとは、ホーキング博士が難問にどう答えるのかにもありますが、答えがないであろう難問に取り掛かる人は何を動機としているのだろう、というのもあります。もっというと、人は何のために考えるのだろう、ということです。物理の世界でもおそらく、ある理論が生み出されてはそのほつれを整えるかたちで新たな理論が生まれることの繰り返しなのではないかと思うことがあります。人間や社会について考える人文系の世界では、なおのこと最終解はないのでしょう。しかしそれらの世界で問いをたて立ち向かい続ける人がいます。
読書会では、詩について書かれた本を読んでいる方がいて、そのなかでは「言葉は道具ではない」という考えが示されていたようです。何かに対して、「目的はなんですか?」と問うことがよくあります。しかし時折思うのは、目的を問うから手段や道具としての意味を考えなければならなくなるのではないかということです。本を読むとき、対話をするとき、ただそれを楽しんでいる、それに集中している。しかし目的を問われると、「なんのためにやっているんだっけ?」と考え始めてしまい、目的的であったそれが手段的になってしまう。「考える」も、似た側面があるのではないかと思ったりもしました。
2月26日:読書のもやもやを話して考える時間
今回のテーマは「小説はなんで読むのか?」でした。
ほかにもいくつかテーマが出ましたが、「小説はなんで読むのか?」に通じるものがあったので、今回はこのテーマを起点として話してみました。全体的に、本や読書そのものに関するテーマが多かったように思います。
Takashiさん
いつもと違った感じの会で面白かったです。
喋ることをお酒に例えると、普段は読んだ本をつまみにお酒を飲む感じですが、今日はお花見しながらお酒を飲もうか、みたいな感じでした。
普段の読書会を含め、喋れる会ってニーズがあると思うんですよね。勿論お金儲けにはなりませんし、よしださんみたいに上手く司会される方がいないと続かないので、誰でもできるもんじゃないですけど。
とにかく喋るのって快感なんですよね。
しょうごさん
普段できない非常に刺激のある会でした。
なかなかうまく喋れなかったですが、次の機会があればもっと積極的に話したいと思いました。
つやまさん
「なぜ小説を読むのか?」という問いは、小説を読むのが自然な自分は、あまり疑問に思ったり言語化したりしたことがなかったので、今回の対話は新鮮でした。自分は科学技術や資本主義に基づいた合理性重視の価値観(これらもある程度必要だとは思いますが、、)へのカウンターとして文学作品を必要としている気がしますが、あまり小説を読まない人がどうやってバランスをとっているのか気になっていたので、そういった話もできて興味深かったです。科学と文学はまったく性質が違うものだが、対立するのではなく寄り添ってあるべきという意見にも同意します。また、どちらも真摯に突き詰めると人間中心の狭い価値観から脱却していくようなところが共通点なのかなと感じました。
よしだ
私は科学書をよく読むのですが、科学書と小説との対比のなかで話されたのはおもしろかったです。印象的だったのは、科学書は言われてみれば分かるものの先端を突き詰めていくもの、小説は分からないものを描くもの、という考えが示されたことでした。それぞれ好きな方を気ままに読めばいいとも思ったりもしますが、違いが分かるとその時に応じて読み分けてみたくなるような気がしました。
2月27日:読みたい本を気ままに読む読書会
つやまさん『やせる! 若返る! 病気を防ぐ! 腸内フローラ10の真実』NHKスペシャル取材班
・遺伝子解析などを用いた最新の研究により、腸内フローラ(腸内細菌がつくる生態系)は1つの臓器に匹敵するほどの働きをしていることがわかってきた。また、その影響は一般的に考えられているよりはるかに広い範囲に及び、全身の不調や心の病気の原因にもなっている可能性がある。
・これまでの医学では腸内フローラの働きが見落とされてきたため、腸内フローラの研究は画期的な発見や発明をもたらすかもしれない。原因不明とされてきた病気のメカニズムが明らかになったり、腸内細菌に働きかけることで穏やかに作用する薬などが開発される可能性がある。
・腸内フローラの研究成果は、私たちの人間観にも根本的な影響を与えるものであり、「人間は遺伝子の乗り物にすぎないし、その操縦席に座っているのは細菌かもしれない」と言っている研究者もいるほどである。
・腸内フローラは人間の性格にも影響を与えている可能性がある。遺伝的に臆病な性質をもつマウスと、遺伝的に活発な性質をもつマウスの腸内フローラを入れ替える実験を行ったところ、臆病マウスは少し活発になり、活発マウスは少し臆病になるという性格の変化がみられた。
・腸にある神経細胞の数は犬の脳ほどあり、単体でも判断する能力があると考えられるため、第二の脳ともいわれている。生物の進化の過程を考えるともともとは腸だけですべての判断をしていたのであり、後からできた脳を絶対視するのも考えものである。腸と脳は迷走神経によって密に連絡を取り合っており、相互に影響を及ぼし合っている。うつ病や自閉症などの心の病気と腸との関連も指摘されている。
Takashiさん『死に至る病』キェルケゴール著 岩波文庫
非難された時、「気にすんなよ」と励まされる。気にしないことは大事で、気にしてばかりじゃ生きていくことさえ難しい。そして「気にしない」人は強い人と見られ、そうありたいと願う人も多い。
しかし、絶望先生ことキェルケゴールは違う違うと言う。
気にしない人は快と不快、ラッキーとアンラッキーだけの世界で生きている人で、刺激に反応するだけの虫みたいだと手厳しい。本書には書いていないが、そういう人は「お金がすべてだ」とか「なんで人を殺しちゃいけないの」とか言い出すのだろう。
じゃあどうすりゃいいの?絶望先生教えてよ!
mtさん『Portrait in Jazz』和田誠・村上春樹著
タイトルからわかる通り、ビル・エヴァンスのリバーサイド時代のアルバム名が本書のタイトルになっています。和田誠さんが演奏者たちのイラストを描き、村上春樹さんがアルバムを選びエッセイを書いた、という内容です。単行本で出された2冊を1冊の文庫本にまとめ、前半が1冊め、後半が2冊めとなっています。
演奏者と演奏の簡単な解説、それにまつわる村上春樹さんの回想や感想が生き生きとまとめられていました。前半は知っている演奏者が多く、後半は知らない演奏者が多かったのですが、しかし後半は、スイングしながら文章を書いているのではと思いたくなるような比喩もあり、退屈しないどころか、聴いてみたいと思わせてくれました。演奏者の中には、被差別的な立場やドラッグの影響などでシリアスにならざるを得ないものもあるのですが、笑いの要素が随所にちりばめられ、読みやすくなっています。音楽というかたちのないものが、知識と経験と語彙力、そしてセンスによって表現されていて、見事だなと思いました。
和田誠さんは、演奏者たちの特徴をよく捉えたおなじみの筆致で、こわそうな人相であっても親しみやすさを感じさせ、こちらも見事でした。両著者ともさすがです。
yuさん『獄中シェイクスピア劇団』
シェイクスピアの「テンペスト」を現代風に語り直しをした話。一回読んで映画見て読み直しをしていました。どんな話がわかってから読み直した方が、対になる人物が見えてきてよかったです。映画になっている書物は映画から入った方がいいなと感じました。
シロウさん『トランス男性によるトランスジェンダー男性学』
自分が普段読まないジャンルの本が多くあったので、とても面白かったです。金融の本はとても気になりました。老後の資金を自分で蓄えなければならない時代になってしまった現代に生きる上で、お金との付き合いかたが学べそうだなー、と感じました。
よしだ『はてしない物語(上)』ミヒャエル・エンデ著/上田真而子・佐藤真理子訳
『モモ』を読んで以来、エンデの他の本も読んでみたいと思っていたので、満を辞して(?)読み始めることにしました。
まだ序盤ですが、内容としては主人公の少年が、学校の屋根裏でファンタジーを読んでいる描写が続いています。つまり本のなかで本を読んでいるのですが、本の中の本の方が文量に占める割合が大きいという不思議な構造です。屋根裏で読んでいるのは学校にあまり馴染めていないから。少年は自分で想像を膨らませるのが好きだからファンタジーに夢中です。
エンデの作品には時代を批評するメッセージが込められているように思います。この本がどんなメッセージにつながっていくのか楽しみです。
過去の読書感想はこちらに載せています。
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