2022.06.17

読書会の読書感想(6/15-6/19)

 参加者に任意でいただいた読書感想を掲載します。15日(水)は7名、18日(土)は7名、19日(日)は6名の参加でした(主催者含む)。
 土曜日の「質問「   」について考える時間。」の質問は、

一平方センチメートルに最高何文字書けるでしょうか

田中未知著『質問』(文藝春秋)

でした。テクノロジーを駆使して何文字書けるのかなどという可能性の話をしていたら、「それって人が読めるんでしたっけ?」という質問が出て、読み手のことをまったく考えていなかったことに気づきました。

6月15日:読みたい本を気ままに読む読書会

yuさん『カラマーゾフの兄弟1』
神がかりとは。
神がかりの女性から生まれたスメルジャコフは人嫌いの料理人。
たぶんフョードルの隠し子。
信仰とは何か。
登場人物の言動で作者は何を伝えたかったのか。
キリスト教
あの世

心で思うことにも自由はないのか。
今日は、スメルジャコフのところを読みました。

よしだ『地球進化 46億年の物語』ロバート・ヘイゼン著/渡会圭子訳/円城寺守監訳
 僕はよく、生態系の本を読んでその複雑でありながら精緻な営みや縄文などの先史時代の本を読んで今とは違う人間の創造性に、感動や興奮をおぼえています(顔は無表情だけど)。でも宇宙の話はスケールが違うと思いました。宇宙は無から誕生し、原子核ほどの大きさから急速に膨張したとか。最初の頃の宇宙には、水素が大半で、ほかにヘリウムとリチウムが多少混在しているのみだったとか(スイ・ヘー・リー)。
 138億年前に始まった歴史のなかで私は生きています。そしていつか死ぬんだけど、地球も50億年後には膨張した太陽に飲み込まれるのだそうです。人間が死ぬとはなにか、そして生きるとはどういうことか。宇宙の本を読んでそんなことを少しだけ考えていました。

6月18日:読みたい本を気ままに読む読書会

しょうごさん『罪と罰』ドストエフスキー
 『罪と罰』主人公、ラスコーリニコフは中々つかめないような人間です。たとえば、激高したと思ったらその直後、急に冷静になり前言ったことと矛盾するようなことを言ったり、自分がなぜこんな行動するのか説明できないような目的不明な行動をしたり、と読者の「ラスコーリニコフはこんな人間である」という解釈を拒んでいるような人物です。
 有名な殺人のシーンですらそうだと言えます。『罪と罰』のwikiには<「一つの微細な罪悪は百の善行に償われる」「選ばれた非凡人は、新たな世の中の成長のためなら、社会道徳を踏み外す権利を持つ」という独自の犯罪理論をもとに、金貸しの強欲狡猾な老婆を殺害する。>といったことが書かれていますが、この小説を読むとこの独自の犯罪理論とはラスコーリニコフが独自に構築した考えではなく、他の人がこの犯罪理論について話しているのをたまたま耳にしただけであり、正直取って付けたような理屈であるということがわかります。また、ラスコーリニコフは殺人前に計画的に犯罪を遂行できるよう練りに練っていますが、そこでも「なぜこんな恐ろしい考えが浮かんでいるのか?」説明ができていません。
 ラスコーリニコフの動きを観ていると、なにか「意識」と「行動」が分離しているような印象をうけます。彼の内部には他者性をはらんでおり、それがが彼の行動、言動に作用してしまう。そしてこの他者性に対して彼は制御ができていない。なので彼は徹頭徹尾、受動的にならざるおえなくなっています。この受動的な態度はドストエフスキーの数々の作品で出てきているなと、『罪と罰』読んで考えました。(自分が読んだ中だと『地下室の手記』の地下室、『悪霊』のスタヴローギン、『カラマーゾフの兄弟』のアリョーシャ)ドストエフスキー自身がてんかんの症状を持っていたことと関わりがあるような気がします。

Takashiさん「鉄のお話(よしださんご紹介の本の内容)」
 私が読んだ本の感想ではなく、よしださんご紹介のお話が印象に残ったので書きます。

 宇宙が生まれた時、最初に水素が作られ水素が核融合されて次々と重い元素が作られました。ここまでは私も聞いたことがありました。しかし次の話は初めて知りました。

 鉄までは比較的順調に作られたけど、それより大きな元素はエネルギー的に難しくて少ししか作られなかったそうです。

 なるほどー。周期表をまじまじと眺めてしまいました。電気自動車を作るためにコバルト争奪戦が行われているのも、宇宙の生まれに関係していたんですね。

よしだ『地球進化 46億年の物語』ロバート・ヘイゼン著/渡会圭子訳/円城寺守監訳
 
今日もだいぶつまずきながらも宇宙の始まりのところを読んでいました。
 水素原子が集まって核融合して周期表をどんどん右下に進んでいく話です。鉄になると核融合が止まるのですが、止まると中心に向かう力が相対的に強くなり超新星爆発を起こします。核融合は外側に向かう力らしく、その外向きの力が働かなくなるからです(なぜ外向きの力なのかはわからず…)。
 「え、じゃー地球はもう超新星爆発後なの?」と思っていたのですが、これは自ら光を放つ太陽のような恒星の話らしく、惑星である地球は超新星爆発とは無縁のようです。じゃー地球はどうやってできたのか、という謎が新たに生まれました。

 最近「はやぶさ2」が小惑星・リュウグウから持ち帰った砂からアミノ酸が発見されたことで話題になっており、生命の起源は地球外にあったのか?という記事をよくみかけます。元々宇宙人だったなんて、知りたいような知りたくないような(まだわかりませんが)。宇宙に夢中になる人の気持ちがすこしわかったような気がしました。

Soi Tomsonさん『寝ながら学べる構造主義』内田 樹 著
構造主義を理解するための入門書だと思う。著者はフランス文学者、思想家、武道家となかなか興味深い。今回は著者が ”構造主義四銃士”とよぶClaude Levi Strauss, Jacques Lacan, Michel Foucault, Roland Barthes の中のミシェル フーコーの業績の部分を読んだ。
彼の業績を著者は
① 人間主義的な進歩史観への異議
② 権力という概念の時代的変化の言説
i) 標準的人間社会の到来
ii) 知(理性)と権力の結託:剝き出しの権力から輪郭のぼやけたものへ(著者はこの輪郭の曖昧な権力の方がむしろ強力だと言っている)
と自分は理解しました。
この本を読む前の構造主義への自分理解とは違うということが現時点での感想です。

一つの体系的な考えというよりも、”世の中には別の物の見方があるよね” と提案してくれるような考え方なのかなあと思っています。構造主義が広まった時代はちょうどグローバリゼーションの黎明期と重なり多文化共生、文化相対主義的な社会を目指す方向性としては自然なことだったのかと感じました。”今、ここ、私たち”の時代を切り取った価値観を数百年後の未来の人たちがどのように感じるのか、またどのような価値観に変化するのか、想像するのは楽しい。

読書会の感想:
シンカイさんご紹介の本『カカ』がとても気になった。
家族内で作られた方言で書かれた文章とはいったいどんな文体なんだろう。

小澤さん『禅とオートバイ修理技術』
 
1974年出版と結構昔の本でハヤカワから出ている本で、時代的なものなのかヒッピーといった単語がリアルタイムの感覚で出てくる。話としてはジョンとシルヴィア、息子のクリスと主人公の4人でバイク旅に出ていて、1つの章の中の旅の途中で何かトラブルなりイベントが発生する。そのときには物語というより主人公の一人称(に見せた著者語り)となり、哲学的な示唆を含んだことが書かれて、章を閉じるといった流れになっている。そのため、物語調ではあるけれども、そうではない雰囲気もあり、読んでいるときの感覚は不思議なものがある。

 今は上下巻の上の100ページくらい。600ページくらいあるからまだ序盤の100ページくらいである。ジョンはわりと技術的なところに嫌悪感というか興味がなく、主人公はわりと技術的な追及を行うという話が出てくる。単なる機械音痴と技術オタクという対比あるみたいな話に感じてしまうが、読書会で話している途中に、ふと英語タイトルを読んで、これは言い得て妙だと思った。「Zen and the Art of Motorcycle Maintenance: An Inquiry into Values」。つまり、An Inquiry into Values、価値への問いというものをバックグラウンドとした本なのだと思うと先ほどの対比の話も表面的な話ではないということが分かった。まだまだ話が続くが、序盤から知的好奇心をくすぐるいい本であると感じる。

6月19日:読みたい本を気ままに読む読書会

つやまさん『「カルト」はすぐ隣に: オウムに引き寄せられた若者たち』江川 紹子
 オウム真理教の事件を知らない若い世代に向けて、カルト宗教の恐ろしさとハマらないための心構えを伝えるためにこの本は書かれている。事件を起こした幹部たちの生い立ち、教団に引き寄せられ犯行に及ぶまでの経緯が、丁寧な取材に基づいて書かれている。今回読んだのは、地下鉄サリン事件の実行犯の一人である林郁夫の部分。もともと彼は有能な心臓外科医で、家族や患者をとても大切にしていたが、患者たちが本人の意思や努力に関わらず亡くなっていくという不条理に心を痛め、あらゆる問題が解決した理想的な世界を求める気持ちが強くなっていった。そこに、仏教の実践を通して人類を救済するという理想を掲げている教団に出会って感銘を受け、妻子を連れて出家してしまう。段々とエスカレートする犯罪行為に加担させられるうちに、正常な感覚が麻痺していき教団の価値観に染まっていく。遂には、人類の救済を実現するためには現世の汚れた人間を殺害することも正当化される、という教義を信じてサリンを撒くに至る。拘置所で阪神大震災のボランティアが必死に救援活動をするニュースを見て、ようやく教団の教えが間違っていたことに気付き愕然とするが、すでに手遅れだった。
 マインドコントロールの恐ろしさは、本人はあくまで自分の価値観に従って考えたり行動したりしていると感じていることにある。マインドコントロールによる価値観の置き換えを、部屋の模様替えに例えて説明しているのがおもしろい。今の部屋が何となくパッとしないなと感じているときに、誰かがセンスの良い家具をくれる。すると、他の家具がが古ぼけて感じられて、それも取り替えてもらう。次は壁紙が合わなく感じられて、張り替えてもらう。気がつくと、部屋の全てが他のものに入れ替わっている、という具合である。
 悩みや不安を抱えているときにわかりやすい答えを示すことで依存させていくというのが、カルト宗教の常套手段である。条件が揃えば、普段の人格や社会的地位などによらず誰でも巻き込まれてしまう可能性があると知っておくことが対抗策になる。また、何か違和感を感じたときにそれを無視しないことも大切である。


 過去の読書感想はこちらに載せています。

読書会参加者に投稿いただいた読書の感想です(2022年10月-)。

 

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(吉田)

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