2021.03.19

怒りを忘れると。読書会から考えたこと。

 少し前のNHKの朝ドラ「なつぞら」で、主演・広瀬すずのおじいちゃんと、その友達のおばちゃんがののしり合っているシーンが何度もありました。罵り合ったからといって喧嘩別れするわけでもなく、またいつものように会って、次の瞬間には罵り合うのです。ご想像の通り、そのきっかけはいつもささいなものです。
 戦後の北海道で始まるそのストーリーでは、おじいちゃんとおばちゃんは、北海道にわたってきた開拓民という設定でした。まったく知らない土地で農業や牧畜が行えるように開拓するのは並大抵のことではなく、さらに冬の寒さは厳しいものでした。今のように断熱された暖房がある家ではなく、すきま風が通るような家に住んで、開拓をしていったのです。
 二人で罵り合ったあと、おばちゃんがたしかこのようなことをこぼしてました。「あたしらの時代は、人を罵ることなしに生きることなど、とてもできなかった」と。
 苦労が耐えず、誰が悪いとも言えないけど理不尽とも思えるほどうまくいかない毎日では、その怒りを誰かにぶつけなければ、まともではいられなかったということなのでしょう。それをお互いに分かっているから、罵り合っても仲違いすることはなかったのだと思います。

 今でも、世代が違えば、言葉遣いの荒さに違いがあると感じることがあります。ただそれも、「なつぞら」のおじいちゃんとおばちゃんのような、苦難を乗り越えてきた証とも言えるのかもしれなと思ったりしました。ある程度裕福な時代に生まれ育った世代は、教育の影響もあるのでしょうが、比較的落ち着きがあって然るべきとも思えたりもします。

 ただ一方で、いつも落ち着きがありすぎること、あるいはそうあろうと意識しすぎることは、必ずしもいいとは言えないようです。
 先日の読書会で『「普通がいい」という病』という本を読んでいました。この本は、精神科医の泉谷閑示氏が書いたもので、全体的に自分を抑えすぎることで起きる、こころの弊害について書かれているものです。その中で、こんな図・概念が紹介されていました。

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 この図が示すポイントは、喜怒哀楽の感情が、上から怒・哀・喜・楽の順番で無意識下に納められているということです。感情は意識にのぼってきてはじめて自分も他者も感じられるため、一番表に出てきやすい感情は、一番上にある「怒」であるということになります。続いて哀が湧きやすく、喜や楽は相対的に湧きにくい感情ということになります。
 怒や哀は一般的にネガティブな感情とされ、あまり表に出しすぎると、「感情的」と言われ非難されてしまうことがあります。しかし、比較的表に出やすい感情である怒や哀を出さないようにしようと思ったとき、どうするでしょうか。おそらく、意識と無意識の間のふたを閉じてしまうのではないでしょうか。これでは、怒や哀だけではなく、感情そのものを表に出せなくなってしまう状態を招いてしまうのだと言います。
 怒や哀は、あまり表に出したくないという気持ちはあるかもしれません。また、もしかしたら、そういう人をみて「感情的な人」とさげすむような目でみていることもあるかもしれません。しかし、怒や哀はとても大切な感情で、それらを表に出すことで、喜や楽の感情も出やすくなるのだと思われます。あるいは、感情豊かでありたいかどうは別にしても、怒っていないとやっていられないということも、あるでしょうし。

 とはいえ、怒ることは人間関係を悪くしてしまうイメージがやっぱりあります。これについても、『「普通がいい」という病』で言及がありました。それは、oldな感情・freshな感情と表現されていたのですが、溜め込んだ怒りをぶつけるから、いわゆるネチっこさのようなものが生まれるというのです。怒りを一度沈めても、やはり自分の中には残っていきます。それが抑えられなくなった時に、溜まっていた分まで芋づる式に出てきて、印象を悪くしてしまうというのです。これはたしかに、あるような気がします。
 怒るときはスパーンと言う、そして時には言い返されるというのが、健全なのかもしれません。誰かあるいは何かに対して怒り、そして哀しみも感じながら乗り越えていくと、喜びや楽しさも深く味わえるということなのでしょう。日々の困難を乗り越えていくにあたって、多少の怒りは、大切な同伴者であると言えるのかもしれません。


〈参考図書〉
泉谷閑示著『「普通がいい」という病』(講談社現代新書)

〈読書会について〉
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 読書会の形式や最近の様子については、こちらに少し詳しく書いています。

(吉田)

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