2020.07.19

読書会の話。「声を聞く」

 今日はリベルのブックレット『体・皮膚・神経 〜私たちは全身で生きている〜』を使った読書会でした。ブックレット作成当初は皮膚だけにスポットを当てようと思っていたのですが、知的活動における体や心の役割や、コニュニケーションに関わる自律神経など、欲張って広げて書いてしまいました。

 読書会では、「言葉では伝わりきらないところ」みたいなものに共感や関心を持ってもらえたのではないかなと思っています。

 今回のブックレットでは、耳では聞き取れない音域を、体表(皮膚)をさらすことによって聞くことができるということとか。声や表情、あるいは周囲環境の音によって、コミュニケーションモードに入るか否かが、自律神経の働きによって切り替わるとか、そんなことを紹介しました。「安全」を確認できる声・音や表情によって、反射的に相手と交流しようというモードになるし、その反対も起こるということです。

 このような事実は、生活のこんな場面と結びつけられます。
 たとえば、なんとなく合う人・合わない人があるのは、声が関係しているのではないかとか。声だけでモテてるんじゃないか説の人がいるとか。ライブに熱狂するのは、皮膚レベルで音を聞いているからではないかとか。

 皮膚が音を聞いているとか、神経レベルでコミュニケーションするか否かを判断しているとは、若干トンデモ科学な雰囲気が漂いますが、研究によって明らかにされてきているのです。そんな知見と普段の生活の違和感が結びつくのは、なんだか面白いし、明日から何かを変えてみようかなという気持ちになります。きっと、声を聞く、表情をみる、肌で感じるというようなことは、思っている以上に大切なことなのだと思います。

 最後に参考図書について少しだけ紹介させてください。

1.山口創著『子供の「脳」は肌にある』(光文社新書、2004)
 今回ご協力いただいた先生の著書です。今回のブックレットは、主に大人の社会や生活を意識して編集・作成しました。ただ、先生は身体心理学の知見にもとづく子育てに関する本も多く出されており、この本はとても勉強になりました。子供はどうやって愛情や信頼を認識するのか、どうやって心が安定し、なおかつ挑戦的なこともできる子供に育っていくのかなど、臨床的なご経験にもとづく内容となっています。

2.傳田光洋著『皮膚感覚と人間のこころ』(新潮選書、2013)
 少し専門的な内容が多いですが、皮膚の秘められた機能について多様に紹介されています。皮膚の聴覚や視覚に関する実験や研究結果や、皮膚と心にまつわる実験結果など。著者は元々は資生堂の研究員だったようですが、美にとどまらず、人類の起源から皮膚の謎に迫ったり、小説家でもあるので表現がおもしろかったりします。

3.花澤寿『多重迷走神経による神経性過食症理解の可能性について』(千葉大学教育学部研究紀要 第65巻 349〜354頁、2017)
 ブックレット第三章で紹介した「ポリヴェーガル理論」について、分かりやすく書かれている日本語の論文です。コミュニケーションや人間関係に関わる自律神経について、各自律神経系の紹介説明と、進化の観点からの機能や働き方などが書かれています。「ポリヴェーガル理論」や自律神経系について理解を深めたい方は、まずはこちらがいいのではないかと思います。


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(吉田)

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