乾燥は肌に良くないというのは常識といってもいいのかもしれません。しかし、厳密には乾燥それ自体よりも、急激な湿度の低下が肌に良くないと言えるようなのです。
こんな実験結果があります。乾燥した環境に皮膚を1週間以上さらすと、表皮でバリア機能を担う角層が分厚くなったというのです[2]。
乾燥は確かに、わずかな刺激でも炎症を受けやすいように皮膚を変容させてしまいます。しかし、角層を厚くすることで、炎症を起こす刺激を抑えることができるのです。つまり、私たちの肌は、乾燥環境にも適応した機能を有しているということです。
他方で、急激な湿度変化にはバリア機能は対応できません。
通常の湿度(40-70%)から乾燥湿度(10%以下)に移っても、バリア機能に異常をきたしません。しかし、高い湿度(90%異常)の環境で2週間過ごしてから乾燥環境に移ると、バリア機能の顕著な低下が起きるのだそうです[3]。
急激な湿度変化は、「自然」ではあまり起こりえません。
しかし、文明社会で生きる私たちの環境では度々起こります。特に夏には、外の高湿度環境と、エアコンのきいた室内や電車内などの乾燥環境とを、一日に何度も行き来します。また、自然では雨などで高湿度になった後は草木がゆっくりと湿度を下げていきますが、コンクリートで囲まれた都市部にはこのような機能もありません。
肌に限らず私たちの体は、人類誕生以来多くの時間を過ごしてきた「自然」に適応した機能を備えていると考えられます。
周辺の空気をコントロールするエアコンなどは、過ごしやすく活動しやすい環境を与えてくれます。しかし、もう一方で、人類にとっての自然状態ではないため、体にとっては良いことばかりではないようです。
「私たちにとっての自然とは何か」に目を向けることで、状態が良い方向に向かうこともあるのかもしれません。
〈参考〉
1.傳田光洋著『皮膚感覚と人間のこころ』(新潮選書,2013)
2.Denda M. 1998. J Invest Dermatol 111:858-63
3.Saro J. 2002. J Invest Dermatol 119:900-4
(吉田)