2021.01.16

二つの時間軸 | 「いいライフスタイルについて考える」読書会⑥

先週の読書会から、合理と非合理の共存について考えてみました。読書会では、内容ではなく、もう少し深いところで対岸にあるような話がされているような感覚を覚えられました。見方を変えれば、選択が委ねられているとも言えるのかもしれません。

 すこし時間が経ちましたが、この前の日曜日に開いた「いいライフスタイルについて考える」読書会について振り返ってみたいと思います。参加者に任意でもらった感想をこちらに載せています。持ち寄られた本は効率化・合理化を図るような内容のものと、そうではないものに分かれていたように感じます。

 効率化・合理化を図るような本としては、睡眠を科学するような本を読まれている方がいました。睡魔が訪れる周期が3種類あることや、睡眠を促す物質などが紹介されており、安眠につながるような知識や考え方が得られそうでした。
 むかしは感覚的に行われていたものが、科学的な見地から補正されていくというのは、いろいろな分野であると思います。たとえばトレーニング方法では、トレーニング効果に影響を与えるホルモンの関係で、有酸素運動のあとに筋力トレーニングを行っても、筋トレの方の効果は得られにくいということを聞いたことがあります。60分ジョギングをした後に60分筋トレをしたとしても、後半の60分は筋肉をつけるという点での効果はかなり薄いということです。そんなもったいないことにならないために、知識をつかって合理化していくのはとても大事であると思います。睡眠も効果的にとることによって、起きている間に行う学習や仕事、人との関わり合いや遊びや趣味といったことに、快適に向き合えるようになるのだと思います。
 他にも、『ストレスフリー超大全』という本を読んでいた方がいました。これは生活で生じるストレスへの対処法が具体的に記されているもののようでした。具体的に書かれていると、実践に結びつきやすく、実践をすると試行錯誤のなかで自分に合う方法が見つかっていくように思います。精神科医の方が書かれた本のようなので、科学による説得力のもと、あらゆるストレスに向き合ってみようと思わせてくれる本という印象を持ちました。

 他方で、効率化・合理化とはあまり結びつかなそうなものとしては、『その島のひとたちは、ひとの話をきかない―精神科医、「自殺希少地域」を行く』という本を読んでいる方がいました。読書感想を聞いていると、「島」というのは「都会」と対岸にあるものとして示されているのではないかと感じました。都会は人が密集していて、交通網も張り巡らされており、それゆえに情報も高密度に流通しています。ヒト・モノ・カネ・情報・コトなどのあらゆるものが、効率的に交換されるような作りになっているように思えます。
 この本では、精神科医である著者のフィールドワークによって、自殺が少ない地域の特徴を考えていくという内容のようでした。中身については参加者の方の読書感想を見ていただければと思いますが、印象的だったのは自殺が少ない島の特徴として「対話」が重んじられていることが挙げられていることでした。読書感想の中では、「人々が対話をすることに慣れている」ことが紹介されています。対話とはたぶん、結論を出すような議論とは違うものなのではないかと思います。相手の言っていることをただ分かろうとする営みであり、結論は出ないけれども広がっていく、分からないことが分かる、そんなイメージです。このような時間の使い方は、効率的・合理的とはまた少し違うものなのではないかと思います。そもそも目的もあいまいなものなので、目的達成までのコストを下げるという効率化を図りようがありません。
 しかし対話を重んじる島の人たちは、自分の軸のようなものをしっかり持っているのだと言います。読書感想を引用すると、タイトルの「「ひとの話をきかない」=自分の価値観をしっかりもっていて、他人の価値観も尊重する」という意味だそうです。対話によって逆に自分との違いが理解でき自分の価値観が鮮明になっていく、話す方も他者と共有することで自分の価値観が確立されていく、そんなイメージなのでしょうか。たしかに、結論がないような話をして、その瞬間には特に意味は感じないけれども、後から自然と思い起こされて、あの人はこんなことを今思っているのではないかと分かっていくようなことがあります。その人自身も表現できない等身大を感じられているような感覚とも言えるのでしょうか。対話を重んじる島の話からは、効率化や合理化を図らないことからしか得られないこともあるのだと、教えられているような気がしました。

 このような対立しそうな考え方が目の前に同時に現れると、少し迷ってしまいます。合理化・効率化を追求できるものもある、ただ一方でそのような考え方では得られないものもありそうだ、ではどちらをどのように選択していけばいいのかなどと迷うのです。この話を深めるためには、参加者の方が読んでいた『「待つ」ということ』の中で紹介されていた時間に関する分類が一つの土台になるのではないかと思います。読書感想でいただいた内容を引用して紹介します。
「印象に残った話は、時間の数え方は2つあるという話。1つめは、現在を起点として未来に向かって時間を数えていく方法。2つめは、未来のある時点を起点として、現在に向かって時間を消していく方法。」
「1つめは未来を待ち受ける行為で、未来は今の日常と断絶されたもの(絶対の外部)であるという位置付けである。一方2つめは、少し前に決めたことを迎えに行く行為で、その時視野になかったことは視野に入らない。未来は今の日常と連続しているという位置付けである。」
 言い換えるとするならば、2つ目は目標や期日を決めて計画を立てていく逆算型の時間感覚で、1つ目は目の前の大切だと思うことや関心が湧くことを気の赴くままに行っていく積み上げ型の時間感覚という感じなのでしょうか。大雑把に言えば、2つ目は合理的・効率的で、1つ目は非合理的・非効率的というイメージを抱くものかもしれません。どちらの時間感覚で生きていきたいと思ったでしょうか。
 という問いが頭に浮かんだりしますが、両方の時間感覚を並行して持てるのではないか、または両方を使い分けた方がうまいこと生きられるのではないかなどと思ったりもしました。2つ目の逆算型の時間感覚は、目的に対して最小のコストで到達できるように計画を立て、同時に様々な予測も立てることになるのでリスクを想定し失敗を避けることができます。しかしながら、目的に反するものは避けることになるので、思わぬ発見を膨らませにくかったり、途中で行き着きたい場所が変わっても補正しにくかったりするのではないかと思います。目的を定めて進む逆算型の感覚において目的を変えるということは、それまでを無にする、場合によって戻る手間がかかることを意味するため、本当はいいと思ってしまった方向へ転換しにくかったりすることになります。その点、1つ目の積み上げ型の時間感覚では、一歩一歩進める中で発見したことを膨らませたり、進む方向を変えてみたりすることができます。時間感覚が障壁となることはありません。
 感じ方は人によるのかもしれませんが、なんだか積み上げ型の時間感覚の方が楽しそうです。ただ、高度で複雑に分業化がされている現代社会においては、みんながいつも積み上げ型で動いていては社会が回らないのだと思います。ある人が締め切りに遅れてしまったりタスク自体を放棄してしまえば、その後に控えている人のタスクもどんどん滞ってしまいます。作家さんが締め切りに間に合わなければ、雑誌に穴が空いてしまうようなイメージです。どうやら、積み上げ型の時間感覚だけで生きていくことはそう簡単にはできなさそうです。しかし、積み上げ型の時間感覚はただ楽しそうなだけではなく、目的自体や企画をつくりだしていく時には適しているように感じられます。つまり、仕事では逆算型の時間感覚が求められるイメージがありますが、積み上げ型の方が適していることもあるのではないかと思われます。「これから何をしていくのか考えよう」というような時には、積み上げ型でいる方がユニークなものが生まれやすいのかもしれません。一歩進むたびに見えてくるものを取り入れていくことで、今はまだ見えていないものが出来上がっていくことがあるかもしれません。一方で、既に目的も計画も定められるようなものであれば、逆算型で合理的・効率的な時間感覚でいた方が適しているのだと思われます。そこで生まれた余剰を、積み上げ型の方に渡していくこともできるでしょう。そして積み上げ型で目的が定まっていけば、逆算型に切り替えるべきタイミングも訪れるはずです。
 このような循環的な営みが、安定的でおもしろい生活や仕事につながっていくのではないかと思ったりしました。また、逆算型と積み上げ型は、仕事とプライベートという分けではなく、仕事・プライベートの中のモノ・コトによって使い分ける方が適切であるような気がしています。避けたいことは、少なくとも現代においては、どちらかの時間感覚に縛られてしまうことなのかもしれないと思いました。積み上げ型だけでは生活や仕事が回らなくなってしまい、逆算型だけでは何かが生まれにくかったり広がりを感じられにくかったりするのではないかと感じています。特に現代社会においては、目的を定めて計画を立てて実行をする逆算型を正とする考え方が強いようにも感じ、注意が必要そうでもあります。
 気がついたら日が暮れているように過ごす時間と、時計を手元に置きながら気持ちよくToDoを消していくような時間、その両方が共存している生き方がいいのではないかなどと思ったりしました。


〈読書会について〉
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 読書会の形式や最近の様子については、こちらに少し詳しく書いています。

(吉田)

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