2021.09.04

本や視点。 ーテーマ「価値観の色々」の読書会

 9月からおよそ2ヶ月間、テーマを「価値観の色々」とおいた読書会を開いていこうと思っています。サブテーマを「人・時代・地域・国・生物種etc..による違い」としてみたので幅広いのですが、主催者として考えてみた本や視点を紹介してみたいと思います。もちろん、ジャンルなどは自由ですので、読書会では読みたい本をお持ちください。行動や思考や習慣に小さくない影響を及ぼしているはずの価値観に、色々と触れてみると、考えが柔らかくなったり、コミュニケーションが豊かになったりするのではないかと考えています。思いつくキーワードをただ挙げていきますので、もし興味があるものがあればお読みいただけるとうれしいです。

世代間

 いきなりテレビの話になってしまいますが、先日NHKで放送された「銃後の女性たち〜戦争にのめり込んだ“普通の人々”〜」を観ました。戦時中の母親たちが国防婦人会という多い時で1000万人に達した組織に所属して、出征兵士の見送りや遺骨の出迎え、慰問袋(士気を高めるための日用品や食料品などが入った袋)の作成など、戦争を支援する活動に参加していた背景について描かれたものでした。番組に登場したのは、国防婦人会に参加していた母親の子どもたちです。彼ら・彼女らは、家にいるときとは違った積極的な姿勢で活動に出かけていく母親を冷静に見ていました。当時、女性に社会活動の機会は少なく、家では姑の厳しい指導にさらされていました。国防婦人会に積極的になるのは、社会活動への参加の機会であり、姑から逃れる手段でもあったからだというのです。当時の子どもたちは、その真意をなんとなく推しはかっていたようなのです。子どもは社会を冷静に見ている側面もあるのかもしれません。
 年齢が10違うだけで驚くほど価値観が異なると感じることがあります。社会を背景にした人生の積み重ねのなかで自然にとる行動やもつ価値観もある一方で、そういったものに浸っていないからこそ持ちうる新鮮な見方というのもありそうです。自分にとってびっくりするような考えをもっていたり行動をとっていたりする人に、読書を通して少し近づいてみるのもいいかもしれません。

◯◯からの逃走

 漠然と、しかし当然のように良いとされる価値観があるのではないでしょうか。たとえば、人にとって「自由」であることは良いことであるとごく自然に考えられているように思います。しかし当たり前のものと考えていても、こころや身体がそこから逃げようとしてしまうこともあったりはしないでしょうか。社会心理学者のエーリッヒ・フロムは『自由からの逃走』の中で、民主主義を獲得した人民がなぜか何らかの統制や支配の下に自身を置こうとする人間心理について迫っています。
 当然のことと思っていても、どこかで違和感を感じたり折り合わない何かを感じてしまうことは、もっと他にもあるのかもしれません。自分にとっての心地よさを求める上で、そのようなものに向き合ってみるのもいいのかもしれません。

儚い?

 一気に視点を引いてみて、生き物そのものに目を向けてみるのもおもしろいかもしれません。人間は強くなりました。かつてはサバンナで獰猛な肉食獣を恐れ、毒をもつ虫や爬虫類などに手を焼いていただろうに、今では手玉にとり自分たちは特別な生活を営んでいます。生物としての進化を経ることなく、技術や仕組みによってヒエラルキーの階段を登ってきたのです。強くなれば弱い者を憐れんだり儚んだりしますが、本当に彼らは弱いのでしょうか。
 たとえば、イヌはヒトよりも寿命が短く、ネズミはさらに短いです。彼らの短い命は儚いのでしょうか?しかし彼らは、短い物理的時間の中で成人になり、出産や子育てといったライフイベントを終えていきます。一生のうちの心臓の鼓動回数も、なんと、寿命の長いヒトと短いネズミとで変わらないというのです。これは、同じ1分1秒でも、生き物によって質的な長さが違うということを示しているのかもしれません。『ゾウの時間 ネズミの時間』では、このような一見強弱の差があるように見えて実は同じであるとか、劣っているように見えて実は優れているという生物の特徴が解き明かされています。過酷な自然環境で長い歴史を生き抜いてきた生物の特徴には、それぞれに生きる上での意味があるのです。

未来をみると

 医療の発達などで今後さらに長生きできるようになると、それはいい気もしますが、自分はどこまで生きたいのだろうかと考えてみたくもなります。遺伝子編集で自分が求める能力や容姿や性格が手に入るかもしれないなんて言われると、そもそも自分は遺伝子編集したいと思うのかとか、みんな同じになってしまうのではないかなんて、考えてしまったりもします。長生きの方がいいとか、能力は高い方がいいとか漠然と考えていたものが、いざそれを得られるかもしれないとなると、急に自分の中で疑問がふつふつと沸いてくるような気がします。
 まだ実感が持ちにくい未来の話に関しては、物語を読みながら想像してみるのもいいかもしれません。以前読書会で『わたしたちが光の速さで進めないなら』を読んでいる人がいました。短編集のようですが、その中のひとつに遺伝子編集ができるようになった未来が描かれていたようです。自分はどう考えるだろうかと、まだ先のことだからこそじっくりと考えてみることができるかもしれません。

「正」とは

 最後は、最近読んで衝撃的におもしろかった本を紹介します。『目の見えない人は世界をどう見ているのか』という本です。
 目が見えない人との対話の中から分かってきた、目の見えない人の世界の捉え方に迫っている内容になっています。目の見えない人は視覚が欠けた足りなくてバランスに欠いたままで生活しているのではなく、耳や鼻などの感覚器の使い方や脳内での情報処理の仕方が異なるようなのです。物を見るかどうかに関わらない普段の思考方法も違うのではと思うくらい(たぶん本当に違う?)、物事の認識の過程が異なります。つまり何かが欠けているのではなく、そちらはそちらとして成り立っているのです。
 目の見える人を前提にして造られた社会は、目の見えない人にとっては不便です。しかし不便そうにしているからといって劣っているわけではありません。そんな思い違いを戒めるのではなく、あっちの世界もおもしろそうだよとガイドしてくれるように教えてくれる本でした。


 ここで紹介したキーワードや本は、ほんの一部にすぎません。ほかにも、価値観の色々そのものに触れるのではなく、色々な価値観を理解していくための手法として「対話」について知っていくのもいいかもしれません。『あなたの人生が変わる対話術』では、精神科医の著者が対話の心得を教えてくれています。印象的だったのは、理解と同意は切り離して話を聴いていいということでした。同意を前提とすると、相手の話を理解するよりも先に肯定や否定の判断が入ってしまいがちです。しかし、最終的に同意するかどうかは一旦おいておいた上で、理解をまずすればいいというのです。たとえ同意をできなくても相手は分かってもらえたということで悪い気持ちにはあまりならないようなのです。価値観の色々に触れていく上では、必要な心得かもしれません。
 読書会では読みたい本をお持ちいただき、読んで感想を交換し、色々な価値観について触れられる時間になればと思っています。お待ちしています。

※テーマ「価値観の色々」の読書会は、1回目を9/4(土)に、2回目を9/26(日)に予定しています。10月は毎週末開く予定です。


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(吉田)

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