昨日の前編では、トロッコジレンマと歩道橋ジレンマの比較から、一見本質は変わらない問題に対して、ちょっとした状況の違いに感情は揺れ、私たちの判断は影響されるということを紹介しました。
今回は、状況の違いではなく、「気分の違い」が判断に影響を及ぼすことを紹介します。
トロッコジレンマと歩道橋ジレンマの判断について、参加者を2つのグループにわけて実験しました[1,kindle1668]。
グループ1の参加者には、ポジティブな感情を引き起こすために、事前に5分間のコメディー映像を見せました。具体的には、土曜の深夜に放送されているアメリカのバラエティ番組です。
それに対してグループ2の参加者には、感情を喚起しないような映像を見せました。具体的には、スペインの小さな村についてのドキュメンタリー映像です。
その結果、グループ1の参加者の方がグループ2の参加者に比べて、歩道橋ジレンマで1人を犠牲にすることを、より許容できると判断しました。
他方で、トロッコジレンマに関しては、2つのグループの間に判断の違いは見られませんでした。
これらの結果から、どのようなことが考えられるのでしょうか。
それは、判断する前の感情的な状態が、判断に影響を与えることがあるということです。
歩道橋ジレンマに対するグループ1の判断は、事前に喚起されたポジティブな感情が、1人を犠牲にするというネガティブな感情と相殺された結果であると考えられます[1,kindle1678]。
他方で、比較的感情の揺り動かしの少ないトロッコジレンマの判断には、事前の感情喚起の影響は少なく、いずれのグループも同じ判断を下しました。したがって、より感情が介在しやすい判断には、事前の感情や心の状態が影響を与えると考えられるのです。
他者に負けたくないという気持ちや嫉妬や妬み、反対に好きな人を応援したいという気持ちなど、私たちの判断には感情が介在することが少なくないと思います。何を正しい判断とするかは難しいところではありますが、ポジティブすぎる判断もネガティブすぎる判断も、後悔を招くことが少なくないのではないでしょうか。
ここでは詳しくは紹介しきれませんが、「午後の方が嘘をつきやすくなる」という研究結果も報告されているそうです[1,kindle1000]。疲れているために、ズルをしたくなるという気持ちを理性で抑えられなくなるということです。
気分や気持ちが判断に影響を与えるならば、先々まで影響を与えるような判断は、疲れていない時、あまり波が立っていない心の状態で行うのが良いと言えそうです。
今回の前・後編では、状況と気分が判断に影響を及ぼすことを紹介しました。判断とはその場にいる人しか下せない、とても主観的なものであるのだなと感じました。周りにいる人ができることは、状況を整理してあげたりすることなのでしょうか。
また判断をする場合には、自分の心の状態も大切です。疲れている時には、たとえ判断が遅れたとしても、少し休息をとってからの方が良い場合もあるのかもしれません。
〈参考〉
1.阿部修士著『意思決定の心理学 ー脳とこころの傾向と対策』(講談社,2017)
2.画像元のフリー写真提供者:https://www.photo-ac.com/profile/1008748
3.『揺れる判断 -前編-』
(吉田)