2024.06.15

他人の領域。

人が話すということには本当にいろんな意味合いがあるのだと思いました。分かり合えなくても知ることだけでも大きな違いが生まれる。話してとりあえず知る、それだけでも十分なのではないかとも思ったり。

 先日の読書会では、サンデルさんに関連する本を読んでいた方の話から、正義と善の話になりました。サンデルさんはNHKの「ハーバード白熱教室」などで日本でも有名になった人で、『それをお金で買いますか』『実力も運のうち』などの著作があります。僕は本の方は積読になってしまっていますが、NHKの白熱教室は観たことがあります。番組の編集もあるのだと思いますが、最後は結論などはなく終わり、なんともすっきりしない。ファシリテーションはしますが、多くの部分を学生さんが話しているという感じでした。しかし、今回の読書会を通してこのスタイルに妙に納得しました。
 正義と善についてですが、又聞きなので理解しきれていませんが、正義とは権利の主張のことを指しているようです。「正義の味方」のようにその世界で認められる絶対的な存在や価値ということではなく、各個人にとっての正しさを言っているようです。たとえば、集合住宅で隣の部屋の子供がとても元気だったとします。しかし、その元気さがうるさいと感じる人もいるでしょう。特に夜勤などだったりで昼夜が逆転しているような人からしたら、睡眠の妨げになります。その人にとってドンドン・ドカドカはしゃいでいる状態は注意されるべき対象です。それに対して、子供が元気なのはいいことではないか・静かにさせるのは可哀想というのも、一つの正義です。それぞれに、「一定の静かさの中で住生活を送れる権利」と「子供を元気に遊ばせてあげる権利」みたいなものを主張していて、これがそれぞれの人にとっての正義です。
 それに対して善とは、難しくて理解しきれませんでしたが、コミュニティ全体で共有している価値みたいなことなのでしょうか。しかし、これはそう簡単に共有できるものではないと思います。子供は元気な方がいい、ということは何となくコンセンサスがとれていても、休みたい時にはしゃがれては困ります。疲れてそのまま仕事に行くことになっては能率が下がるだけでなく、危険が伴うかもしれません。

 話を聞いていて、サンデルさんは、「個人」というものに対する認識自体を訂正するところから始めようとしているのだと思いました。富や信用は個人の努力によって得られたものではなく、おおざっぱに言うと運の側面が大きいということもその一つだと思います。例えば、サッカーの才能があってもサッカーという産業がなければ富は得られません。サンデルさんはもっと深いことを考え・言っているのでしょうが、まずは個人は個人単体では存在しえないという常識の否定があるとします。
 では、その常識の否定を共有するにはどうすればいいか。一人一人と対話をしながら理解を得ていくことは大変です。そこで教育の重要性に気づきます。公教育によって、共通認識を国という大きな集団で共有することができます。
 しかしそれでも我慢できないことや納得できないことというのは出てくるのだと思います。それぞれに違う状況を生きているからです。例えば、努力は報われる・努力は善であるということを教育を通して学んだとします。しかし、年齢を重ねるごとにそれをそのまま体現していて「努力は報われるとは真理であり努力は素晴らしい」と感じている人と、そうではない人が出てくるでしょう。サンデル教授は白熱教室で、それぞれの人のそう考える理由を聞いて、集団で共有させていたように思います。
 共有したからといって共通の善になるわけではないと思います。でもお互いに信じて疑わないその先には、聞いてみると確かにそうだなと感じられる領域、言い換えると自分の常識は万人にとっての常識ではないと感じる瞬間があると思います。しかも案外すぐそこにあり、信じて疑いもないという壁は割と簡単に崩れてしまう、崩すことができてしまうこともあるようにも思います。ただ、それはテキストコミュニケーションよりも音声で、音声だけよりも映像も交えて、そしてそれよりも直接対面での方が起きやすいように感じています。不思議な話ですが、直接会う・話すと、それが本当に存在していることを確かに理解するからです。人が集まって話すこと、サンデルさんはまずはそんなことをやっていたということなのでしょうか。

追伸.
 そうなると、読書やオンライン読書会をやっているのはなぜなんだということになるのですが、人に影響されすぎない時間というのも大事な気がしており、そういう意味合いがあるのではないかということにここではしておきます。

(よしだ)

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