2020.12.26

類型は他者を分かろうとするきっかけになる。

「人間の類型」と聞くと、他者にレッテルを貼るようであまりいい気がしません。しかし、類型を知るとは違いを知るということであり、違いを知ることではじめて他者を分かろうとする意識があらわれるのではないかと思いました。違うから関心が湧くというのもあるのかも。

 人を何らかの基準にもとづいて分類するなどということは、あまり気乗りしないことです。血液型や動物占いなどの楽しいやつは別にして、分類された方はレッテルを貼られたような気がしてあまりいい気がしないからです。しかし、人の類型のようなものを知っておくと、人を固定的に見るのではなく、逆に相手をよく分かろうという気持ちが芽生えるのではないかと思いました。今回は、類型を知ることで芽生える他者理解の意識のようなことについて考えてみたいと思います。

 さまざまな精神症状と対峙する中で確立されていったユング心理学では、いくつかの軸を用いて人間の類型を試みています。その類型の紹介に入る前にまずは、ユング研究所から日本人として初めてユング派の分析家の資格を得た河合隼雄氏による類型の扱い方について紹介したいと思います。臨床心理の経験が豊富な河合氏は著書『ユング心理学入門』の中で次のように言っています[1,P38]。

タイプを分けることは、ある個人の人格に接近するための方向づけを与える座標軸の設定であり、個人を分類するための分類箱を設定するものではないことを強調したい。

 分類箱と言っているのは、この人は完全に分類Aであの人は完全に分類Bと定めるようなことを言い、これは人や人のこころに対する見方として適切ではないと言います。類型という座標軸を用いはするものの、軸上に存在したりそこに静止したままであることは稀なのだそうです。人を分かろうとするときに補助的につかえる軸である、という程度のものであり、それによって人を完全に規程できるものではないということです。

 そのような前置きをさせてただいた上で、ユング心理学の一つの類型である、外向と内向について紹介したいと思います[1]。
 外向的とは、関心や興味が外界の人や物事に向けられ、それらとの関係や依存によって特徴付けられていることを言います。外向的な人は、新しい場面に入る時、それほど深く考えずに適当に行動できるので、うまく場に馴染むことができると言います。一般的に、社交的で、多くのことに興味をもち、交友関係も広い傾向にあるのだそうです。
 それに対して内向的とは、関心が内界の主観的要因に重きを置かれていることを言います。外向的な人とは違って、新しい場面に入る時は、当惑を感じてどこかぎこちない感じがつきまとうと言います。ただ、だんだんと場に慣れるにしたがって、他の人を驚かせるような深さを示すことがあるのだそうです。
 外向と内向には、他にも様々な特徴があり、またどちらかの類型に完全に寄るわけではありません。しかしながら、これまで会った人を浮かべながら、なんとなくあの人は外向的・内向的なのかななどと思うことはできるのではないでしょうか。そして、そのように浮かべる中で、「あの人は自分とは違うタイプだったのだな」となんだか腑に落ちるような気持ちにもならないでしょうか。

 目鼻顔立ちが違うように、人の性格も人それぞれ違うのだと言えます。しかし、ユングが強調するところによると、自分と型の異なる人を理解することは困難なのだそうです。『ユング心理学入門』の中では、このように紹介されています[1,P60]。

外向型のひとにとって、内向型のひとは、わけのわからない冷淡な臆病者と見え、逆に後者は前者を、軽薄で自信過剰なひとと思う。

 おそらくは相手方を羨ましいと思う感情も抱きつつ、批判的な感情も抱きやすいということです。これも心当たりがあり、「なんであの人はああなんだ」ということを思ったり言ったりすることは少なくありません。これは見方によっては、自分と相手が同じであることを前提として、相手が未発達であったり何らかを怠ったりしていることによって、自分とは違う状態や態度をとらざるをえないと捉えているのではないでしょうか。
 しかしながら、そもそも「あの人と自分とは違う」という認識を持てた場合はどうでしょうか。そもそも違うのですから、自分と比べてどうこう評価するようなことはお門違いになります。また、違うということは、自分にはできないことができるということであり、反対に自分が助けになってあげられることもあるということです。そして、このようなことを考えることが、相手を分かろうとするということではないかと思えてきます。自分と違うという認識を持つ以前は、自分と重ね合わせて相手を見ているということであり、真に相手を見ている・理解しようとしているとは言えないのかもしれません。

 相手を分かろうとする・協調的な関係を築こうとする上では違いを認識する必要があり、そのためには心理学で提示されるような類型は有効なのではないかと感じました。ただし類型は、そのまま相手に当てはめて固定化・レッテル化させるのではなく、人の特性にはいくつかの軸があるのだなという認識をくれる眼鏡のような捉え方が適切ではあるようです。『ユング心理学入門』には、河合隼雄氏の平易な表現により、他にも類型やこころのことについて説明されています。ご興味ある方は手にとってみてください。


〈参考図書〉
1.河合隼雄著『ユング心理学入門』(培風館)

(吉田)

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