2020.06.25

先端に頼りすぎない判断。

 合理的に考えて判断したり、理性で欲望を抑えたりできることは人間の特徴であると言えます。ほかの哺乳類や霊長類を見ていても、人間ほど強い合理性や理性は感じないでしょう。

 このような合理的思考や理性による抑制を司る脳は、脳の表面にあります。
 感情を司る脳の部分は、主に頭部の中心位置に納められている脳幹や大脳辺縁系などであるとされています。
 それに対して、合理的思考を司るのは、脳の表面にあたる大脳皮質であるとされているのです。大脳皮質は、チンパンジーや人間で飛躍的に発達している、進化の歴史では比較的新しい脳です[1]。
 また、大脳皮質の一部である前頭葉は、現在のことだけではなく不確実な未来のことを考える場所であるとされています。結果は未知で不明だとしても、落ち着いて考え、前もって先のことを予測しておく場所です。
 この前頭葉は、MRIの画像解析によると、20歳から30歳の間に完全に成熟することが分かっているのです[2,kindle2400]。前頭葉は額の裏側にあり、脊髄の近くが脳の根元だとすると、まさに脳の先端に位置します。脊髄近くに位置する運動や感情に関係する部分から脳は成長していき、最後に合理性や理性を司る部分が成長するのです。
 つまり、合理的・理性的判断を司る脳は、進化の過程でも、私たちの成長過程でも、最も後に発達する最先端の部分であると言えるのです。このような事実を踏まえると、合理性や理性が人間にとって最も重要であると感じられ、重宝したくなります。

 しかし、先端部にはない脳も、正しい判断をする場合などに大きな働きをしていることを忘れてはいけません。
 たとえば、永世名人タイトルを獲得した棋士の羽生善治さんは、数多ある打ち手の中から有効なものだけが頭に浮かぶと報告されています。不要な打ち手は、何らかのプロセスを経て無意識的に捨てられているのです。
 その時に働いている脳の部分は、奥の方にある感情を司る部分であると、脳の断層撮像装置による解析で分かっています[1,kindle225]。考えうる全ての打ち手から合理的・理性的に判断しているわけではないのです。

 私たちは、進化の過程で培ったあらゆる部位を活用して生きているのでしょう。
 個人的な話になりますが、いろいろ考えたり試したりして疲れ切った時に、やるべきだと思えることが見えてきたりすることもあります。合理的な脳の部分がお休みしている時に、実は出ている結論が奥の方から顔を出してくるのかもしれません。
 良い結果をもたらす正しい判断ができる時とは、どのような時なのでしょうか。それは必ずしも脳の先端だけに頼った時ではないようです。


〈参考〉
1.石川幹人著『だまされ上手が生き残る ー入門!進化心理学』(光文社新書,2010)
2.メグ・ジェイ著/小西敦子訳『人生は20代で決まる』(早川書房,2014)

(吉田)

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