生物は敵がいることによって進化するという仮説があります。生物学者リー・ヴァン・ヴェーレンが提唱する「赤の女王仮説」と呼ばれるものです。赤の女王とは、小説『鏡の国のアリス』に登場する人物です。彼女が作中で発した「その場にとどまるためには、全力で走り続けなければならない」という台詞から、種・個体・遺伝子が生き残るためには進化し続けなければならないことの比喩として用いられているそうです。
こんな生物進化の例があります[1,kindle1406]。
アゲハチョウの仲間のジョコウアゲハは、猛毒のアリストロキア酸を持つウマノスズクサを餌にしています。なぜ、ジョコウアゲハが猛毒を持つ植物を餌にできるかというと、毒の影響を受けないように進化適応したからなのです。そればかりが、猛毒を体内に蓄積することによって、自らも有毒になりました。それによってジョコウアゲハは、鳥という捕食者から身を守ることに成功しているのです。
猛毒な植物が、捕食者である蝶を進化させました。そもそも猛毒な植物も、捕食者がいることで多様な毒を備えるように進化した結果であると考えられます。敵がいることで進化するという「赤の女王仮説」は、仮説として一定の正当性があるように考えられます。
私たち人間は、多様に進化した植物の毒を利用して、薬を作っています。競争によって発現する新たな能力や性質が、当事者だけではなく周囲の力になることもあるようです。
〈参考〉
1.稲垣栄洋著『弱者の戦略』(新潮新書,2014)
2.画像元のフリー写真提供者:https://www.photo-ac.com/profile/1203781
(吉田)