人類の社会は発展し続けているように感じる、しかし私たち個人個人はどこか無理しているようにも感じる、そんな違和感がこのテーマで先生を訪れた動機でした。
ストレス社会と言われて久しいですが、ストレスは、生きていれば当たり前に生じるもののようにも思えます。しかし、これだけモノやインフラが行き渡り、安全も確保されているのに、そのストレス問題が解決する方向に向かわないのは、なぜなのだろうかとも思っていました。
最近では、GDPではなく幸福度で、国同士の比較をするようにもなってきました。また、少子化に伴い、会社側の視点だけではなく、働き手側の人間的な視点から、良い会社生活とは何か、ということも考えられ始めています。物質的な成長が一段落し、人間にとっての幸せな環境が、改めて考えられ、築かれ始めようとしているのではないでしょうか。
今回は、人類の進化の過程で、私たちの心はどのように築かれたのかという進化心理学の視点から、現代社会の不安やストレスの要因について考えています。
人類だけではなく、生物の進化は非常にゆっくりとしたものです。ですので、今を生きる私たちの心は、祖先が多くの時間を過ごした狩猟採集時代に依存するものでした。心が育った狩猟採集の環境と、現代社会の環境との違いが、私たちの心に混乱をもたらしているようです。
内容は、遺伝のメカニズムに簡易的に触れ、そのメカニズムに基づくと、私たちの心はどのような特性を備えていると言えるのか、先生の知見をもとにまとめています。およそ200万年前の狩猟採集の時代までさかのぼって、私たちの心の特性が備わった過程を概観しています。そして、その特性が、現代社会のどのような点で不一致を示しているのかを、現代の社会環境に触れながらまとめています。最後の方では、ではどのようにすれば問題は解決されるのか、コミュニティのあり方や個人の考え方について、抽象的なかたちではありますが触れています。
今回のブックレットの内容を踏まえると、私たちの心の不安やストレスは、私たち自身に要因があるというよりも、環境に要因があると言えそうです。
しかしながら、その環境を作ってきたのも人類です。その進化の歴史を踏まえると、なんだか不思議な生物だな人間というのも、と少しだけ他人事のようにも思ってしまったりもしました。ただ、未来をよりよくするためには、自分事として向き合っていかなくえはいけないでしょう。明日から使えるような実践的な内容ではありませんが、遠くのほうに光明が見えるような内容にできたかなと思っています。
『未進化な心の混乱 〜現代のコミュニティ生活のあり方を考える〜』
(吉田)