2021.05.01

本の紹介。 ーテーマ「無意識」の読書会

5月2日から「無意識」をテーマにおいた読書会を始めます。少し漠然としていますので、参考になりそうな本を紹介させていただきます。無意識は底の見えないほど大きなもののようです。

 5月2日から「無意識」をテーマにした読書会を開くことにしています。およそ2ヶ月間、ほぼ毎週開く予定です。いろいろな人がいろいろな本を持ってくることで、無意識というものを幅広く捉えられる時間になればと思っています。
 ここでは、テーマに合いそうな本を紹介していきます。なお、紹介する本は、どうしても主催者の趣味嗜好に偏ってしまいますが、ジャンルが以下のようなものに縛られるわけではなく、自由です。お好きな本をお持ちいただき、読んでいただければと思います。

『意思決定の心理学 ー脳とこころの傾向と対策』(阿部修二著、講談社選書メチエ)
 日々の生活の中では、さまざまな意思決定や選択が行われています。ランチに何を食べるかや、冷蔵庫に入っているアイスを食べてしまうかどうかという日常的なものから、リスクやリターンを天秤にかけながら行うような複雑なものまで様々です。後者のような複雑で重要性が高い意思決定は、理性を働かせて合理的に行われていると思われるかもしれません。しかし、必ずしもそうではなく、どうしても感情が介入してしまうようなのです。例えば、直前にバラエティ番組を見ているだけで、楽観的な判断を下してしまうという実験結果もあるようです。
 感情をイコール無意識的と言ってしまうのは大雑把なのでしょうが、日々の選択や意思決定には感情や無意識が大きく介在していると言えます。というよりもむしろ、全てに意識的な意思決定をしていては、いちいち立ち止まらなくてはいけなくなり生活や仕事がままらなくなってしまうのでしょう。
 この本では、感情と理性が、お金や人間関係、道徳的判断や利他的な行為などに、それぞれどのように影響を与えているのかが、心理学的実験結果とともに考察されています。私が読んだときの感想としては、人や社会が、こうまでさまざまな出来事を日々こなしていけるのは、感情があるからなのだなと思いました。利他的な行為も、頭で考えるよりも先に感情で動くという結果も紹介されていました。ただ一方で、感情だけで判断すると損失を被ってしまうケースもあり、その場合は意思決定やこころのはたらきを俯瞰的に捉えた上で、感情をサポートするように理性を働かせることが重要であると、本の中では述べられていました。人の意思決定は感情的か理性的かという二項対立的にではなく、中立的に書かれた、考える引き出しが増える本だと感じました。

『無意識の構造』(河合隼雄著、中公新書)
 わたしたちが普段意識できることは、ほんの一部にすぎず、こころには意識の領域よりもはるかに大きな無意識の領域があるとする考えがあります。例えば、論理的に考えると選択肢Aなのに感覚的にはBの方がいいと思えてしまうことや、疲れていたり酒を飲みすぎたりして普段とは少し違う人格が出てくることなども、無意識の作用であると考えられます。また、(臨床心理学的に言われる)二重人格やコンプレックスやヒステリーなども、普段は表に出てきていないけれども、奥深くの無意識で形成されたこころの姿であると考えられています。
 無意識とは、自分ではない自分のようにも思えますが、無意識にあるのは表では生きられなかった反面の自分という見方ができるといいます。その反面が周囲に投影されることで、人間関係やパートナー選びに影響したりもするそうです。こうしてみると少し恐い気もしますが、この無意識も含めたすべてが「自己」であり、ときには意識的に無意識を見つめることで自己の再形成を図ることが必要なのだそうです(ただし、これはとても困難なことで、安易に行えないもののようですが)。また、無意識に対してエネルギーが注がれる状態を退行状態と言うそうですが、その退行状態を経て、新しい発見や発明が成されるとも考えられているようです。創作的な活動においても、無意識が大きな仕事をしているようなのです。
 この本は、日本にユング心理学を広めた臨床心理学者の河合隼雄氏によって書かれた本です。無意識という、言語化しがたいことを対象にしているので、容易に理解できる話ばかりではないと思います。しかし、深く大きな無意識を、臨床心理の実例や、表現に適した物語などを交えながら説明されており、人のこころを壮大なものとして感じることができます。人生の経験に応じて、関心が向く箇所が異なる本のように思えました。

『皮膚は「心」を持っていた!』(山口創著、青春新書インテリジェンス)
 人のこころはどこにあるのでしょうか。脳がこころの作用を生み出している気もしますが、それだけではないのでしょう。これには様々な議論があるのだと思いますが、皮膚がこころを持っているという考えもあるようです。
 この本では、臨床発達心理士で身体心理学を専門とする山口創(はじめ)氏が、皮膚あるいは身体がこころに及ぼす影響を書いています。例えば温かいものや柔らかいものに触れると優しい気持ちになったり、信頼できる人との物理的な距離が近いと心強い気持ちになって目の前のハードルが低く感じたりする、皮膚や身体とこころの関係について述べられています。皮膚とは、熱い・痛いなどを感じる触覚的な機能を持っているだけではないようなのです。
 経験的にも、握手をしたり、肩をぽんと叩かれたりすることで、ポジティブな感情が湧くことに実感はあると思います。最近では、やむを得ない事情もありながらも、言語や視覚などの意識的な行為に頼ることが多くなっていると思われます。普段はあまり意識することのない、皮膚や身体がこころに及ぼす影響について知ることで、コミュニケーションが円滑になったり、幸福度のようなものが向上したりするのではないかと思いました。


 ここであげた3つは前に読んだことがある本ですが、いつか読みたいと思っているテーマに関連しそうなものとして、『「利他」とは何か』があります。前に読書会で読んでいた人がいたのですが、本当の利他的な行為とは自分の意思とは関係なく自然に発生するもの、というように書かれていたようでした。あまりに意識的に利他的であろうとしすぎると、相手に結果や見返りを期待してしまう、という意味合いがあるようでした。本当に利他的であるとは簡単なことではなさそうで、ここにも意識だけではない無意識が関係してくるように感じられました。


 他にも、宮崎駿氏の創作活動と無意識の関係についても個人的な興味を持っています。「ナウシカ」「紅の豚」「もののけ姫」などの創作に関するインタビューがまとめられた『風の帰る場所 ーナウシカから千尋までの軌跡』では、創作における無意識の関わりが宮崎氏自身の口から以下のように語られていました。

象徴的な話で、実は映画の『ナウシカ』が終わった直後にナウシカのカレンダーを描けって言われたことがあるんですよ。僕はぶつぶつ言い続けていたんですけどね、結局描くハメになって。それでいい加減に描いたんですよね。今まであったとこ描くの嫌だから、勝手にこう、こんなことがあるのかなって、これからのとこ描いたんです。でも、振り返ってみれば、結局そこで描いたものが本当に実現しているんですよね(笑)。[P204]

なんか作品を作る中で無意識の奥のほうの意識化できない部分で道筋は大体できてるんですね。だから、それを意識の上に拾い上げるのにやっぱり時間がかかるんですよ。雑念がいっぱいありますから。このへんでハラハラさせなきゃいけないんじゃないかとかね(笑)。[P205]

ナウシカは、映画版の『風の谷のナウシカ』は1984年に公開されましたが、漫画版のナウシカは、4度の中断をはさみながら1994年までアニメ情報誌に連載されていました。その漫画版のナウシカで実現されていくシーンが、映画版ナウシカの終了後に特にストーリーを意識することなく描いたカレンダーの中に、既にあったというのです。
 宮崎氏は自身で、無意識の中に道筋が既にあったのではないかと言っており、創作と無意識の間には親密な関係が感じられます。創作のとき、雑念がいっぱいあると言っていますが、雑念とは周囲から向けられる期待のようなもので、意識がキャッチするものなのではないかと思います。宮崎氏は「人を喜ばせること」を大事にしていると言っているので、周囲の反応も気にかけているのでしょう。ただ、創作においては、意識がキャッチしてしまう周囲を遮断して、無意識の深い海に潜ることが必要になるのだと感じられました。
 宮崎氏の創作に関しては、『風の帰る場所』では思想的なところも含めて比較的フランクに語られている印象でした。他にも『出発点 ー1979〜1996年』という本もあり、こちらは映画の企画書とともにエッセイや対談も記録されており、前に少し立ち読みした程度ですがおもしろい内容のものだと思いました。


 今回紹介した本は、創作・選択・利他といったところに、テーマがよっています。しかし言うまでもないくらいに無意識は、わたしたちの生活に関係しているのだと思います。冒頭に申し上げましたとおり、ここで紹介した本は、どうしても主催者の趣味嗜好によったものになってしまいます。どうか、お好きな本をお持ちいただき、いろいろなところに思いや考えを巡らせられれば思っています。また、無意識というのは、とてもあいまいなものであると思いますので、厳密な定義のようなものは考えていません。みなさんがイメージする、無意識が関わっていそうなことが描かれた本をお持ちいただき、お読みいただければと思います。無意識を知ることで、自分を含めた人の行為や言動を、なにか大きな目で捉えられるようになるのではないかと感じています。それでは、お待ちしています。


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(吉田)

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