昨日は「いいライフスタイルについて考える」読書会でした。参加者にいただいた感想はこちらに載せていますので、ここでは主催者が読んだ本を少しだけ紹介させていただきます。
私は『生き心地の良い町』を読みました。サブタイトルは「この自殺率の低さには理由がある」というものですが、自殺率に関心があるというよりは、少し前に読んでいた『縄文の思想』という本の「おわりに」で紹介されていて興味が湧きました。『縄文の思想』では、「旧海部町のコミュニティは、人びとに「生きづらさ」をもたらす自由の侵害や圧力の行使を、可能なかぎりとりのぞいてきた社会」であると紹介されていました。旧海部町とは、『生き心地の良い町』の中で取り上げられている町です。
これまでは町・街のことを考えるとき、都会と地方という二つの分けしか頭の中にありませんでした。そして、都会は人間関係が面倒になることはなさそうだけど、サバサバしすぎていて関わり合いにあまりにも欠ける、反対に地方はコミュニケーションも豊富だけど、ときに人間関係に面倒さを感じそうという印象を持っていました。しかし、どうやら地方は地方でも一括りにはできず、もう少し違う雰囲気のところもありそうだというのです。実は以前の読書会で『その島の人たちは、人の話をきかない』という本を読んでいる人がおり、少し興味を持っていました。コロナ禍によって生活や仕事のネット化が一段と進み、都会にいることの意味が薄れてきているようにも思います。すぐにではありませんが、将来的な選択肢として地方っぽいところにも興味は出始めているので、住む場所としての地域に関して考えを深めてみたいと思い手にとってみました。
まだ三分の一くらいしか読めていませんが、本の内容は、予防医学者の岡檀氏が、社会人を経て大学院に入学した時の研究内容に基づくものでした。岡氏は、仕事で戦争被害者の聞き取り調査をすることがあり、その時に戦争による心の傷が癒された人とそうでない人の差があることを感じていたと言います。そして、どうやらその差は戦争から戻ってきた後に所属する、地域やコミュニティに要因があるのではないかという仮説を抱きます。大学ではその時の仮説をもとに研究テーマを決め、本の中では研究の奮闘記と共に考察がつづられています。
岡市が研究対象としたのは、徳島県の太平洋側に位置する人口三千人ほどの小さな海部町(現・海陽町)というところでした。そこは高齢者の自殺率が低い町として新聞で紹介され、研究対象や方法を探していた岡氏の目にとまります。そして実際にデータをもとに分析してみると、自殺率が顕著に低かったのです。さらに驚くべきことに、自殺率の低い要因が一般的なところには見受けられなかったのです。一般的には自殺率を高めてしまう要因は、経済上の問題と健康上の問題を抱えることにあると言います。しかし海部町は、それら二つとも、他の町との大きな差はなかったのです。つまり、海部町の自殺率を低くしている要因は他にあるということです。
岡氏は現地に赴き、町の人たちに話を聞いて回りながら分析・考察を深めていきます。あまり形式的になりすぎずに、ざっくばらんに広く話を聞いていたようでした。そうしていくつかの要因が特定されていくのですが、私が読んだ範囲で興味深かったのは「赤い羽根募金が集まらない」というところです。普通、町に募金箱が出て回ると、「他の人はいくら入れたの?」などと気にしながら、みな一様に募金するのだと言います。しかし海部町の人は、「これは何に使われるのか?」と町の担当者に尋ねたり、「他の人が募金するのは自由だけど、自分はしない」というようなことを言い、募金が簡単には集まらないのだと言います。かと言って決してケチというわけではなく、町の祭りには大枚をはたいてお金を出したりするのだそうです。つまり、自分で考えて自分で選択をしている、そしてそれを他の人には押し付けないというような風潮があるようなのです。
まだ読んでいる途中ではありますが、たしかに町の雰囲気や慣習はストレスの大小に影響を与えるのだろうなと思いました。経済上・健康上の問題はとても重要ですが、それだけではないところも生きることに影響を与えるというのも納得感が持てることでした。
以前、別の読書会で、移住に関連する本を読んでいた人がいました。その人が言っていたのは、移住の決め手はそこに住んでいる人と合いそうかどうかに置かれることが多いということでした。海部町のような町が生き心地のいいところだとした時に、それはきっと実際に訪れなければ分からないのだろうなと思いました。数字や文字情報などには表れにくい、実際に訪れて触れてみなければ分からないことだと言えそうです。住む場所を選ぶときの眼が養われていきそうな本だと感じました。
〈読書会について〉
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(吉田)
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