2020.05.02

ヒトとしての自然状態を分かるために〈ジャンルと本の紹介〉

生きものであるということを自覚することは、とても有益なことであると感じています。生き方を捉え直したり、社会問題の発見につながると思うからです。生物学や関連する本の紹介をしていきます。

 生きものであるということを自覚することは、とても有益なことであると感じています。なぜなら、人間は高度な文明社会に身を置きすぎて、本当の欲求や求める生き方の輪郭が見えにくくなっているのではないかと思うからです。

 私たちは時代ごとに政治思想を変え、教育などによって持つべきと言われる倫理規範や価値観を変えてきました。
 たとえば、ほんの数十年前まではそこらへんにゴミをポイ捨てすることは当たり前でしたが、今ではそのようなことをする人は減りましたし、そんなことをしようものなら相当な白い目で見られます。だまっていれば当たり前にやってしまうことを、私たちは後天的に補正して生きることができるのです。
 ほかにも、こんな自然状態との齟齬があります。それは、手段の目的化の問題です。
 手段の目的化を問題視するのには、こんな前提があるのだと思われます。それは、目的を常に念頭に置き、手段にはとらわれず柔軟に目的に合わせて変えていくべきだ、手段をこなすことに猛進してはいけないということが正しいあり方であるという前提です。
 しかし、なぜこの正しいはずのあり方が行動として根付かず、いつまでたっても手段の目的化の問題が浮上するのでしょうか。それは、生きものである私たちは、目の前のことに一生懸命になることが自然だからではないかと思うのです。
 サバンナの草原で狩猟採集を生業として生きていた頃、今日食べるものを確保して、子どもを守り育てることで精一杯だったことでしょう。その状況では、手段だの目的だのと議論する余裕などなく、目の前に生じる問題をとにかくどうにかして解決していくことが、生きるという大目的のためには重要であったはずです。私たちは基本的には、目の前のことを一生懸命にこなすことが自然な状態であると考えます。

 さて、では手段の目的化は問題ではないのでしょうか。
 私なりの考えでは、現代においては目的は見失ってはいけないと考えています。なぜなら、これだけ大多数・高密度で生きる人類は、一定程度共通の目的のもとに協力しあう必要があるからです。あるいは、協力しあうために目的を定める必要があると考えられます。
 しかし、そんな高度な社会に生きる人間である前に生きものだから、手段だの目的だの考えずに邁進したいという自然状態があると思います。私たちは、先天的に持つ生きものとしての本能と、人間的な理性によって後天的に備えることができる規範や価値観の狭間で生きているのです。そして、それが自然状態を分かりくくさせ、自然状態との乖離はストレスなどの問題を生じさせていると考えられます。

 そんな自然状態とのギャップを見つけるにあたって、生物に関する知識を得ることは有効であると感じています。あらゆる生物に見られる共通的性質は、生きものとして変えられないことを教えてくれます。また、生物進化の歴史は、私たちがどんな環境で進化し、その結果どんな形質を備えているのかを教えてくれます。そのような根本的なところから離れてしまうことは、私たちに何らかの弊害をもたらすと考えるのが妥当ではないでしょうか。

 生きものであると自覚することで、生きもの目線での生き方の捉え直しができたり、新たな社会課題の発見にもつながると思うのです。そこで、今回は生物や進化理論に関する本を紹介したいと思います。


社会と生物界、人間と生きものの間を行き来しながら考えさせられる

 生物としての常識的な生き方から、今の人間はいかに逸脱しているかが生物学的に説かれています。特に「時間」については、私たちが普段使う時計の時間以外に、生物目線の時間があることが説明されています。その生物的な時間を基点として、文明化した社会や高齢者社会に関する問題提起がされています。普段の思考の延長線上にはないような、新たな考え方を与えてくれる本です。
本川達雄著『「長生き」が地球を滅ぼす ー現代人の時間とエネルギー』(CCCメディアハウス)


超長期を生き抜いてきた生物の歴史が、生きるために必要なことを教えてくれる

 こちらは、生物の生存戦略について説明されている本です。人間の文明の歴史よりもはるかに長い生物進化の歴史から、激烈に変化する環境を生物はいかに生き延びてきたのか、その生存戦略が様々な知見をもとに説明されています。“強い”適応ではなく“そこそこ”の適応が長期の生存戦略として妥当であること、生物も私たち人間も「環境からの独立」を一つの戦略コンセプトにしていることなどが説明されています。事業や人生の戦略を考える時の一つの切り口になるかもしれません。
吉村仁著『強い者は生き残れない ー環境から考える新しい進化論』(新潮選書)


リベルのブックレットも一冊紹介させてください。

私たちの心はどう進化し、何に安らぎや幸せを感じるのか
 生物は環境に適応したものが生き残るので、進化環境を知ることは、どのような性質を備えているかを理解することにつながります。もちろん人間も例外ではありません。このブックレットでは、人間が長い歴史をどのような環境で生きてきたのか、その結果どのような心の性質を備えているのかの説明を試みています。そして、進化環境と現代の社会環境が大きく異なることが、私たちにストレスをはじめとした様々な問題を生じさせていることを説いてみています。
『未進化な心の混乱 ー現代のコミュニティ生活のあり方を考える』(リベル)
(このブックレットは明治大学教授の石川幹人先生にご協力いただいています)


 以上、今回は生物や進化理論のジャンルと、それに関する本を紹介させていただきました。それでは、良いお休みの時間をお過ごしください。

(吉田)

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